生徒の音楽的自立をめざすレッスン
江口寿子
第9回
☆上手にしてほしい!
お母さんたちは、どんな目的や希望を持って、わが子にピアノを習わせはじめるのでしょうか。
30年前のお母さんたちは、こんなふうにおっしゃいました。
「習わせるからには、上手になってほしいですね。上手にならなければ、習わせる意味がありませんから・・・・・・」
「私が子どもの頃、ピアノを習っているお友達がいて、うらやましくてたまりませんでした。自分の子どもにピアノを習わせるのは、私の永年の夢でした」
中には、こんなことまでおっしゃるお母さんもおられました。
「習わせるからには、できればピアノの道に進ませたいですね。投資したぶんくらいは、とりもどしたいですから・・・・・・」
もちろん、最後のお母さんの発言は冗談でしょう。これから習いはじめる子どもをつかまえて、こんな先走った話を真面目にするのはおかしすぎます。
でも、その当時のお母さんたちがピアノを習わせる第一の目的は、ピアノを上手にさせることだったのです。
☆好きにしてほしい!
いまのお母さんたちの目的は、30年前とは違います。いまのお母さんたちは、こんなふうにおっしゃいます。
「上手になることよりも、好きになってほしいと思います。この子のペースで、ゆっくりでもよいから、レッスンを楽しんでほしいですね」
「私自身は2年生のとき、「バイエル」の途中で挫折してしまいました。この子には、上手にならなくても、一生ピアノを好きでいてほしいと思います」
上手になってほしい、夢だった、できればピアノの道に進んでほしい・・・・・・。昔のお母さんたちのピアノに対する思いは、熱すぎて、重たすぎるものでした。
でも、今のお母さんたちの思いはちがいます。上手になるより好きになってほしい、レッスンを楽しんでほしい・・・・・・。楽しいこと、好きになることを、1番に求めています。お母さんたちの目的は変化し、新たな方向に向いています。
でも、ピアノの先生の中には、お母さんたちの変化に、気がついていない先生がいます。そんな先生は、楽しさをあと回しにして、先生自身が自分の先生から受けた厳しいレッスンを、そのまま子どもたちに与えています。
楽しませる、好きにするレッスンは、ピアノの先生にとって未知のレッスンです。 自分で考えながら、研究史、開拓していかなければならないレッスンです。
音楽はほんらい、楽しむためのものです。先生たちは化石にならず、日々進化していってほしいと思います。
●江口寿子(えぐち・かずこ)
国立音楽大学ピアノ科卒。絶対音感プログラムの創始者。ピアノ指導のかたわら、ピアノ教育、音楽教育、音楽心理学、児童心理学を研究。
「一音会ミュージックスクール」(現生徒数2000人)をつくり、こどもたちを指導。ピアノ教師の研究サークル「子どもの音楽を考える会」(現会員数1000人)をつくる。ビデオによる通信教育「PLAS」(受講者数8000人)を行なっている。
●著書
「おんぷの学校」
「ピアノの学校」
「ピアノレッスンを変える」シリーズ (以上 全音楽譜出版社)
「イメージ聴音ワークブック」
「リズムワークブック」(共同音楽出版社)
他多数。
●一音会ホームページアドレス
http://www.ichionkai.co.jp/ |