生徒の音楽的自立をめざすレッスン
江口寿子
第10回
10回の連載を、私はこんなテーマでしめくくりたいと思います。
そのテーマとは、「どうしたらよい先生になれるのか?」というテーマです。このテーマはまた、ピアノの先生から一番多く寄せられる質問でもあります。
この質問に対する答はとうていひと言ではすみません。もし答を本に書くとすれば、おそらく10冊以上におよぶほどの量が必要だと思います。
でも、多くの答の中からたった一つの答を選ばなければならないとしたら、私は迷わず、ある答を選びます。
☆生徒が悪い。
タケダ先生は、今日もイライラしています。シンゴくんが、いまだに楽譜が読めるようにならないからです。
シンゴくんに楽譜の読み方を教えてから、もう二年はゆうにたちます。それなのにシンゴくんは、いまだに楽譜がほとんど読めません。
タケダ先生は、悩んだあげく、音大時代の親友に、シンゴくんのことを相談しました。
親友は、「その子、ピアノに向いていないのよ。ピアノをやるには、楽譜がよめるくらいの頭はもっていないとね」と悲観的なアドバイスをしてくれました。
タケダ先生も、「やっぱりシンゴくんは頭が悪いのかもしれない」と思いはじめました。
タケダ先生やタケダ先生の親友の先生のように、うまくいかないことをせいとのせいにすると、気持ちは楽になります。
でも、この二人の先生はたぶん、よい先生にはなれないでしょう。
☆先生が悪い。
マツダ先生は、レッスンに自信がありません。いつも何かに悩んでいますが、いまもアヤちゃんがなかなか楽譜が読めるようにならないことで悩んでいます。
マツダ先生は、「きっと自分の教え方が悪いからだ」と悩み、「どうしたらアヤちゃんにうまく読譜を教えられるのだろうか?」という疑問が、一日中、頭からはなれないのです。
もし、マツダ先生から、「どうしたらよい先生になれるのでしょうか?」と質問されたら、私はこんなふうに答えるでしょう。その答は、多くの答の中から、私がたった一つ選ぶ答でもあります。「よい先生になるコツは、何かがうまくいかないとき、その原因が生徒にあると思わないことです。うまくいかない原因はすべて、先生である自分にある、と思いましょう。よい先生になるためには、つねに自分の指導力に疑問を持ち、その疑問を解決するために努力を続けることが必要だからです。そうすれば、あなたはきっと、よい先生になれますよ!」
●江口寿子(えぐち・かずこ)
国立音楽大学ピアノ科卒。絶対音感プログラムの創始者。ピアノ指導のかたわら、ピアノ教育、音楽教育、音楽心理学、児童心理学を研究。
「一音会ミュージックスクール」(現生徒数2000人)をつくり、こどもたちを指導。ピアノ教師の研究サークル「子どもの音楽を考える会」(現会員数1000人)をつくる。ビデオによる通信教育「PLAS」(受講者数8000人)を行なっている。
●著書
「おんぷの学校」
「ピアノの学校」
「ピアノレッスンを変える」シリーズ (以上 全音楽譜出版社)
「イメージ聴音ワークブック」
「リズムワークブック」(共同音楽出版社)
他多数。
●一音会ホームページアドレス
http://www.ichionkai.co.jp/ |