お母さんの心と向きあう

江口寿子

第13回


◆わが子を溺愛する。


  わが子を愛していることに気がつかずに、愛したいと悩んでいるお母さんがいます。また、わが子を愛していると思い込んではいるけれど、ほんとうは愛せないお母さんもいます。
  このようなお母さんのほかに、わが子を溺愛するお母さんがいます。
  ヒデキくんのお母さんの溺愛ぶりは、誰が見てもわかるほどです。
  ヒデキくんは二年生にもなるのに、まるで“着せかえ人形”のように、お母さんに上着を着せてもらい、靴をはかせてもらって帰りじたくをしています。
  そして、楽譜を入れたカバンを、お母さんにもたせて帰って行きました。
  一人のお母さんが産む子どもの数が減り、お母さんたちは、少ない子どもを、失敗しないように、大切に育てようと一生懸命です。
  その結果、溺愛するお母さんになってしまうのだと思います。
  お母さんとお話ししていると、お母さんの話し方で、溺愛しているかどうか、すぐわかります。
「先生、うちのボクが……」
「先生、うちのシンちゃんが……」
  他人と話しているときに、こんなふうにお子さんのことを呼ぶお母さんは、お子さんを溺愛しているお母さんだと思って、まずまちがいありません。
  ヒデキくんのお母さんも、「うちのヒデくんが……」とおっしゃいます。
 “ボク”や“ちゃん”や“くん”づけで呼ばないまでも、何かにつけて、「うちの子は」と、自分のお子さん中心に物事を考えるお母さんも要注意です。
  おしなべて、お母さんたちは、女の子には厳しく、男の子には甘くなる傾向があります。お父さんはその反対で、女の子には甘く、男の子には厳しくなる傾向があります。
  お母さんもお父さんも、わが子といえども、異性については理解しきれない部分があり、その自信のなさが、異性の子どもに甘くなるのだと思います。
  わが子を溺愛するお母さんの心理は、まさにそれと同じで、結局は、子育てに自信がないのです。
  わが子に対する愛情と、自信のなさとが重なって、わが子をスポイルし、ダメ人間にしてしまうほど、溺愛することになってしまうのです。
  ヒデキくんのお母さんの場合も、一人っ子で男の子という、溺愛する要素がそろっています。
  ヒデキくんのお母さんは、一生、いまのように、ヒデキくんの世話をやいて歩くつもりなのでしょうか。
  お母さんがいくらそうしたくても、それはできないことです。
  愛しているのなら、お母さんはお子さんが早く自立できるように育てるべきです。溺愛するのは、ほんとうの愛情ではありません。


●江口寿子(えぐち・かずこ)

 国立音楽大学ピアノ科卒。絶対音感プログラムの創始者。ピアノ指導のかたわら、ピアノ教育、音楽教育、音楽心理学、児童心理学を研究。
「一音会ミュージックスクール」(現生徒数2000人)をつくり、こどもたちを指導。ピアノ教師の研究サークル「子どもの音楽を考える会」(現会員数1000人)をつくる。ビデオによる通信教育「PLAS」(受講者数8000人)を行なっている。

●著書

 「おんぷの学校」
 「ピアノの学校」
 「ピアノレッスンを変える」シリーズ (以上 全音楽譜出版社)
 「イメージ聴音ワークブック」
 「リズムワークブック」(共同音楽出版社) 他多数。

●一音会ホームページアドレス
 http://www.ichionkai.co.jp/



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