お母さんの心と向きあう
江口寿子
第12回
◆わが子を愛せない。
前号で、わが子を愛せなくて悩んでいるお母さんのお話をしました。
そのお母さんは、自分自身がお母さんに愛された経験がないために、ほんとうはお子さんを愛しているのに、愛していることに気がついていませんでした。
そして、「わが子を愛していない」という罪悪感に苛まれ、「わが子を愛せるようになりたい」と悩んでいました。
このようなお母さんは、ほんとうはお子さんを愛しているので、心配はいりません。
でも、ごく少数ですが、ほんとうにわが子を愛せないお母さんがいるのです。
わが子を愛せないお母さんたちには、共通の特徴があります。それは、「自分はわが子をとても愛している」と信じ切っているところです。
わが子を愛せないという自覚が、まったくありません。むしろ、「ほかのお母さんより、自分のほうがずっと深くわが子を愛している」と思っているのです。
このようなお母さんたちも、お母さん自身の生い立ちが、しばしば大きく影響しています。
動物園で人口飼育で育てられた猿は、子猿を産んでも子猿に興味がなく、育児放棄をして、自分では育てようとしないそうです。
母猿に捨てられた子猿は、そのままでは死んでしまうので、飼育係が育てることになります。そして、その子猿は成長したとき、自分もわが子を育てない母猿になるそうです。
つまり、自分の経験の枠の中でしか、行動ができないのです。そして、この行動の鎖は、つぎの世代、またそのつぎの世代へとつながっていきます。
動物は、見栄をはったり、体裁をつくろったりすることはありませんので、行動の鎖はストレートにあらわれます。
人間の場合には、見栄も体裁もありますし、こうあるべきだというモラルもありますから、愛していなくても、愛しているような行動をとります。
そして、自分自身の心にも、「自分はわが子をとても愛している」と思い込ませています。
わが子を愛していないお母さんは、愛している証拠をほしがります。
たとえば、わが子にピアノの練習を強要します。極端な場合は、ピアノの部屋に閉じ込めて、ムリやり練習させます。練習を怠ければ、叩いたり、おやつを与えなかったり、厳しい罰を与えます。
その結果、その子は当然、よその子より曲が先に進みます。お母さんは、曲が先に進んだことを、わが子に対する自分の愛情の証拠にします。
わが子を愛せないお母さんは、すぐにでも、カウンセラーに相談すべきです。
そして、自分の心の中のトラウマを取り除いて、健康な心を取りもどしてほしいと思います。
●江口寿子(えぐち・かずこ)
国立音楽大学ピアノ科卒。絶対音感プログラムの創始者。ピアノ指導のかたわら、ピアノ教育、音楽教育、音楽心理学、児童心理学を研究。
「一音会ミュージックスクール」(現生徒数2000人)をつくり、こどもたちを指導。ピアノ教師の研究サークル「子どもの音楽を考える会」(現会員数1000人)をつくる。ビデオによる通信教育「PLAS」(受講者数8000人)を行なっている。
●著書
「おんぷの学校」
「ピアノの学校」
「ピアノレッスンを変える」シリーズ (以上 全音楽譜出版社)
「イメージ聴音ワークブック」
「リズムワークブック」(共同音楽出版社) 他多数。
●一音会ホームページアドレス
http://www.ichionkai.co.jp/ |