お母さんの心と向きあう

江口寿子

第10回


◆わが子と対話する。


◆わが子と対話する。

 前号で、体罰で躾けられているユウヤくんのお話をしました。
 体罰で躾けられている子どもには、二つの特徴があります。
 まず、言葉で注意を与えても、まったくいうことをききません。まさに、“馬耳東風”です。
 つぎに、暴力的な行動をとります。平気でお友だちを叩いたり、突きとばしたり、蹴とばしたりします。
 このような子どもは、体罰で躾けられていると思ってまちがいありません。
 「子どもの躾に体罰をつかうのは必要だ」とか、「体罰をつかって躾けるのは効果的だ」と考えているおとなは少なくありませんが、私は反対です。
 体罰による痛みは、子どもにとって強い恐怖です。恐怖から逃げるために、そのときは体罰を与えるおとなの注意にすぐしたがいます。
 でも、心の中に湧くのは、体罰を与えるおとなに対する恨みや、憎しみの心です。素直な反省の心ではありません。
 猛獣と呼ばれるライオンでさえも、愛情をもって躾けなければ、安全に芸を教え込むことはできないそうです。
 鞭で脅かして支配していると、“ライオンつかい”がうっかり背中を見せた瞬間に、ライオンが背後から襲いかかるのだそうです。
 ましてや、ユウヤくんは人間の子どもです。体罰で躾けようとするのは、まちがっています。
 では、どうしたらよいのでしょうか。
 お母さんはまず、真剣にお子さんの目を見てください。そして、お母さんがお子さんに伝えたいことを、表情と言葉で真剣に伝えてください。
 小さなお子さんであっても、たとえ言葉がわからないお子さんであっても、お母さんの心からの表情と言葉は、かならずお子さんの心に伝わるものです。
 つぎに、お子さんの言葉にも、耳をかたむけてあげてください。
 前回のレッスンのとき、ネコの絵をぬっているお友だちの回りを走っていたユウヤくんに対して、「走ってはいけません」と注意するだけでなく、先生はこんなふうに質問するべきでした。
「どうして走っているの?」
 もしかしたら、ユウヤくんは、こんなふうに答えたかもしれません。
「ぼく、トトロの“ネコバス”になって走ってるんだ!」
 子どもが、おとなから見て困った行動をとっているときでも、その子なりの理由があって行動しています。
 子どもですから、たいていはまちがった理由や、自分勝手な理由です。でも、真剣に理由をきいてやってください。
 時間はかかっても、体罰ではなく、お子さんとの対話をくり返しながら、物事の善悪を教えていかなければならないと思います。




●江口寿子(えぐち・かずこ)

 国立音楽大学ピアノ科卒。絶対音感プログラムの創始者。ピアノ指導のかたわら、ピアノ教育、音楽教育、音楽心理学、児童心理学を研究。
「一音会ミュージックスクール」(現生徒数2000人)をつくり、こどもたちを指導。ピアノ教師の研究サークル「子どもの音楽を考える会」(現会員数1000人)をつくる。ビデオによる通信教育「PLAS」(受講者数8000人)を行なっている。

●著書

 「おんぷの学校」
 「ピアノの学校」
 「ピアノレッスンを変える」シリーズ (以上 全音楽譜出版社)
 「イメージ聴音ワークブック」
 「リズムワークブック」(共同音楽出版社) 他多数。

●一音会ホームページアドレス
 http://www.ichionkai.co.jp/



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