お母さんの心と向きあう

江口寿子

第1回


◆お母さんという人。


 ピアノレッスンを進めていくうえで、お母さんと先生の関係を無視することはできません。
 なぜなら、レッスンはけっして、子どもとの関係がうまくいき、レッスンの中身がよければうまく進んでいく、というものではないからです。

 近頃、困ったお母さんがふえてきて、頭を悩ましておられる先生は多いようです。「子どもはよい子なのに、お母さんがちょっとね……」という言葉をしじゅう耳にします。どうして困ったお母さんがふえてきたのでしょうか?
 その疑問を解くためには、「お母さんという人はどんな人なのか」について、考えてみる必要があります。

 お母さんという人は、子どもを生きがいとしている人です。お母さんという人は、自分の命より、子どもの命のほうが大切な人です。子どもの命を助けるためなら、自分の命を迷わず投げ出すことができる人です。

 また、お母さんという人は、自分の子どもを最後まであきらめない人です。自分の子どもがどんなに出来が悪くても、隣の出来のよい子どもととりかえたいと思わない人です。世間の人がどんなにわが子のことを悪くいっても、「あの子はよい子だ」とかばいつづける人です。
 もし、わが子が重大な犯罪を犯してしまったとしても、「きっと何かのまちがいだ。あの子はそんなことをする子ではない」と信じつづける人です。
 そして、もしその犯罪が真実だとわかったときにも、「あの子に罪を犯させたのは私の責任だ。あの子は悪くない。罰するのなら私を罰してほしい」と詫びつづける人です。

 つまり、お母さんという人は、わが子に対して、地球上の誰よりも、盲目的ともいえるほど深い愛情を、無償で注ぎつづけることができる人なのです。
 その愛情があるからこそ、子どもを産み、育てることができるのですし、お母さんの愛情は、まちがいなく尊いものであり、余人もまねのできないものです。

 でも、この尊いはずの愛情が、いろいろな困った問題を引き起こす原因になることもあります。
 そして、わが子のために…… と願う気持ちとは裏腹に、わが子のためにならない結果になることがしばしばあります。

 「お母さんがちょっとね……」と思ったときには、思い出してください。
 第三者から見れば、驚くような、呆れるような、バカバカしいような、子どもじみた、非常識なお母さんの行動のすべては、お母さんがおかしいのではなく、子どもに対する溢れるような愛情から出ている行動なのだ…… ということを。

 あらためてそういう目で見てみると、お母さんと子ども、お母さんと先生との困った関係を解決する突破口を、かならず見つけ出すことができるはずです。



●江口寿子(えぐち・かずこ)

 国立音楽大学ピアノ科卒。絶対音感プログラムの創始者。ピアノ指導のかたわら、ピアノ教育、音楽教育、音楽心理学、児童心理学を研究。
「一音会ミュージックスクール」(現生徒数2000人)をつくり、こどもたちを指導。ピアノ教師の研究サークル「子どもの音楽を考える会」(現会員数1000人)をつくる。ビデオによる通信教育「PLAS」(受講者数8000人)を行なっている。

●著書

 「おんぷの学校」
 「ピアノの学校」
 「ピアノレッスンを変える」シリーズ (以上 全音楽譜出版社)
 「イメージ聴音ワークブック」
 「リズムワークブック」(共同音楽出版社) 他多数。

●一音会ホームページアドレス
 http://www.ichionkai.co.jp/



第2回へ

バックナンバー “index”へ

Topへ