子どもの心を見つめて

江口寿子

              
第20回


◆子どもの目を恐れる。

 子どもは、おとなとちがいます。一番ちがうところは、発達にムラがあるところだと思います。つまり、未発達なところと、おとななみに発達しているところが、混在しているところです。

 たとえば、言葉で自分の気持ちを伝えることは下手ですが、相手の人間性や心の内を読みとるのは鋭くて、けっしておとなに負けてはいません。

 私は小さい頃、おぼえていないほどたくさんの先生から、歌やピアノを教えてもらいました。

 なぜかその音楽教室は、短いと二、三か月、長いときでも半年くらいで、クルクルと先生がかわりました。

 私は素直な子どもでなかったのかもしれませんが、先生がかわるたびに、先生の品定めをしていました。

 こちらは五、六歳の子どもですから、先生のほうには油断があります。「どうせ子どもだから……」という気持ちが、心のどこかにあったのだと思います。

 でも、私の観察眼は、子どもながらに鋭く働きつづけました。

 この先生、自信がなさそう。あっ、この先生、いま誤魔化した。この先生、頭が悪そう。この先生がいまいったこと、きっと嘘だな。この先生、真面目に教える気がないな。子どもだと思って、手抜きして教えてるんだ。この先生、たぶん子どもがきらいなんだな。この先生、きょう、レッスンを早く終わらせようとして、急いでいるみたい……。

 まさか、五、六歳の子どもに自分が品定めをされているなどと、先生たちは思ってもいなかったことでしょう。いまでは、先生たちにちょっぴり同情します。

 でも、その当時の私は、先生たちのレッスン態度に、本気で怒っていました。

 もちろん、中には子ども心に尊敬し、大好きだった先生もいました。教えていただいたのは短い期間でしたが、いまでも大好きだった二人の先生のお名前は、はっきりとおぼえています。

 私が好きだった先生は、子どもだからといって、見くびらない先生でした。子どもだからといって、侮らない先生でした。子どもだからといって手加減することなく、要求してくださる先生でした。

 そして、いつも真摯な態度で、真実のこと、奥深いこと、子どもにはむずかしいと思われることを、私が理解できるように言葉を選びながら、粘り強く、忍耐強く、ていねいに教えてくださる先生でした。

 ピアノの先生たちは、もっともっと、子どもの目を恐れるべきだと思います。子どもたちの視線の厳しさ、鋭さを、もっともっと感じとってください。

 子どもだからこそ正直に話し、子どもだからこそ誠実に接し、子どもだからこそ尊重し、子どもだからこそ質のよい音楽を与え、子どもだからこそ本物のレッスンをしようではありませんか。                  ( 完 )


※好評をいただきました連載「子どもの心をみつめて」は、今回で終わりです。
 次号からは、江口先生の新テーマでの連載がはじまりますので、どうぞお楽しみに!

  

●江口寿子(えぐち・かずこ)
 国立音楽大学ピアノ科卒。絶対音感プログラムの創始者。ピアノ指導のかたわら、ピアノ教育、音楽教育、音楽心理学、児童心理学を研究。
「一音会ミュージックスクール」(現生徒数2000人)をつくり、こどもたちを指導。ピアノ教師の研究サークル「子どもの音楽を考える会」(現会員数1000人)をつくる。ビデオによる通信教育「PLAS」(受講者数8000人)を行なっている。

●著書
 「おんぷの学校」
 「ピアノの学校」
 「ピアノレッスンを変える」シリーズ (以上 全音楽譜出版社)
 「イメージ聴音ワークブック」
 「リズムワークブック」(共同音楽出版社)
 他多数。

●一音会ホームページアドレス
 http://www.ichionkai.co.jp/





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