子どもの心を見つめて

江口寿子

第2回

◆ボール投げをする。

 前回は、子どもたちは一人ずつちがうこと、同じように接してもうまくいかないこと、百人の子どもがいれば、百とおりの接し方をしなければならないこと、をお話ししました。
  百人に百とおりの接し方を見つけるなんて、とてもむずかしい課題です。その子にあった接し方を見つけるためには、先生はどうしたらよいのでしょうか。
  でも、ここにやさしい方法があるのです。たしかにむずかしい課題ではありますが、実はその答は、子どもたち自身が先生に教えてくれるのです。
  先生はレッスンのとき、子どもとボール投げをするつもりで接してください。
  先生がボールを投げると、子どもが投げ返してきます。子どもの気持ちで、いろいろなボールを投げ返してくるはずです。
  素直でよくのびるボール、まっすぐでキャッチしやすいボール、強くて乱暴なボール、癖の強い曲がったボール、弱々しくて届きにくいボール、ときには思いがけないコースに投げてくることもあるでしょう。
  先生は、子どもが投げ返してくるボールを、どんなボールであっても、しっかり受けとってやってください。
  そして、こんどは先生が、「先生はあなたのことをこう思っているのよ」と、自分の気持ちをいっぱいこめて、ボールを投げてやってください。
  子どももまた、その子なりの気持ちをこめて、投げ返してくるはずです。
  また、投げ返すまでに時間がかかったり、いくら待っていても投げ返してこないときもあるかもしれません。
  もし、子どもが投げ返してこなかったときには、先生は新たなボールを、何回でも投げてやってください。
  先生がこんなふうに投げたら、子どもがこんなふうに投げ返してきた。そのボールを先生が、こんどはこんなふうに投げたら、こんどはこんなふうに投げ返してきた……。
  このボール投げをくり返しているあいだに、だんだん子どもの気持ちがわかってきます。そして、この子にはどんなボールを投げればよいのか、自然にわかってくるのです。
  つまり、「自分はこんな子どもだよ」「こんな気持ちだよ」「こんなことを考えているよ」と、子どもが先生に教えてくれるのです。
  先生は子どもと接するとき、むずかしく考えるまえに、まず子どもとのボール投げをはじめてください。
  もし、ボール投げが楽しいと感じられれば、そのときは、先生と子どもの気持ちが通じあっているときなのです。
  次回からは、具体的な子どもの例について、考えていきたいと思います。


●江口寿子(えぐち・かずこ)
 国立音楽大学ピアノ科卒。絶対音感プログラムの創始者。ピアノ指導のかたわら、ピアノ教育、音楽教育、音楽心理学、児童心理学を研究。
「一音会ミュージックスクール」(現生徒数2000人)をつくり、こどもたちを指導。ピアノ教師の研究サークル「子どもの音楽を考える会」(現会員数1000人)をつくる。ビデオによる通信教育「PLAS」(受講者数8000人)を行なっている。

●著書
 「おんぷの学校」
 「ピアノの学校」
 「ピアノレッスンを変える」シリーズ (以上 全音楽譜出版社)
 「イメージ聴音ワークブック」
 「リズムワークブック」(共同音楽出版社)
 他多数。

●一音会ホームページアドレス
 http://www.ichionkai.co.jp/



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