子どもの心を見つめて
江口寿子
第18回
◆どんな子どもでも受け入れる。
私のスクールでは、ピアノを弾きたい子どもなら、どんな子どもでも受け入れています。
ですから、弱視、全盲、ダウン症、小児麻痺、自閉症、不登校など、体や心に重荷を負った子どもたちもいます。
私が最初に教えた障害児は、全盲の子どもでした。
ある日、一人のお母さんが訪ねてこられ、目が見えない息子にピアノを教えてほしい、とおっしゃいました。
私は、即答しました。
「はい。わかりました」
私があまりあっさり引き受けたので、お母さんはかえって不安になられたのかもしれません。
「先生。子どもに会ってから決めてください。そのほうがいいんです」
障害をもって生まれてきた子どもに、何の罪も、責任もありません。
障害をもっていても、親にとって、社会にとって、かけがえのない大切な子どもであることに変わりはありません。
障害をもっていても、生まれてきたからには、幸せになる権利があります。
私が昔、二年半の入院生活にピリオドを打ち、障害者になって帰宅したとき、母は笑顔で迎えてくれ、こういってくれました。
「あなたが障害者になっても、あなたは私の大切な娘であることに変わりはないわ。そして、あなたの人間としての価値も、ちっとも変わらないわ!」
私は母の言葉に、どれほど慰められ、力づけられたかわかりません。
障害者として、劣等感や絶望感に襲われたとき、自信や誇りを失いそうになったとき、母の言葉を思い出しました。
その後の私の人生は、母の言葉に支えられてきた、といっても過言ではありません。
その私が、障害児を受け入れるのは当然のことです。重荷を負っている子どもたちだからこそ、音楽という楽しみをもたせてあげたい、と思います。
スクールの中に障害者がいると、子どもたちは、障害者にどんな手助けをすればよいかを、自然におぼえていきます。
「先生。こっちにくるの? この椅子、
じゃまだからどけてあげるよ!」
子どもたちが、私の車椅子の通り道をつくってくれます。
目が見えない友だちがつまづいて転ばないですむように、教えてあげている子どももいます。
「そこに、段があるよ!」
いま、あらためて考えてみると、障害児を受け入れることは、障害児のためだけではなく、実は子どもたちみんなのためなのだ、と思えてきます。
そして、もしかしたら、子どもたちみんなにとって、音楽やピアノより、もっともっと大切な勉強をしているのではないか、と思えてきます。
●江口寿子(えぐち・かずこ)
国立音楽大学ピアノ科卒。絶対音感プログラムの創始者。ピアノ指導のかたわら、ピアノ教育、音楽教育、音楽心理学、児童心理学を研究。
「一音会ミュージックスクール」(現生徒数2000人)をつくり、こどもたちを指導。ピアノ教師の研究サークル「子どもの音楽を考える会」(現会員数1000人)をつくる。ビデオによる通信教育「PLAS」(受講者数8000人)を行なっている。
●著書
「おんぷの学校」
「ピアノの学校」
「ピアノレッスンを変える」シリーズ (以上 全音楽譜出版社)
「イメージ聴音ワークブック」
「リズムワークブック」(共同音楽出版社)
他多数。
●一音会ホームページアドレス
http://www.ichionkai.co.jp/ |