子どもの心を見つめて

江口寿子

              
第17回


◆実りのある発表会にする。

 発表会は楽しいことが一番ですが、それは目的の半分でしかありません。あとの半分の目的は、子どもたちにとって、実りのある体験にすることです。

 そのためには、いくつかのポイントがあります。

 ポイントの一つめは、選曲です。
 演奏する曲は、あまり背伸びをした曲でもダメだし、やさしすぎる曲でもダメです。背伸びをしすぎると、未完成のまま弾くことになり、やさしすぎる曲は、子どもの意欲を引き出せないからです。
 がんばって練習すれば、その子の実力で十二分に弾きこなせるレベルの曲を選びましょう。
 また、平坦な曲はできれば避けて、短いやさしい曲でも、きかせどころのある曲を選びましょう。もし、平坦な曲を選んだ場合は、きく人の心にアピールできる曲の山をつくってあげてください。

 ポイントの二つめは、曲の仕上げ方です。
 ひととおり弾けるようになったレベルで、安心してはいけません。本番でどんなに緊張しても、最後までとまらないで弾けるように練習させましょう。
 もっとも大切なことは、音楽として魅力ある演奏をすることです。音楽が存在しない演奏は、人の心を楽しませたり、感動させることはできません。

 ポイントの三つめは、達成感を味わわせることです。
 子どもたちがそれぞれ、自分の個性を発揮して、力いっぱい演奏し、弾いたあとに、「やった!」という達成感を味わうことができる演奏をさせてください。
 すべての子どもたちがそんな演奏ができれば、やさしい曲ばかりのプログラムであっても、その発表会は子どもたちにとって、実りのあるものになります。

 あるとき、楽譜を買いに行った楽器店で、知らないお教室の発表会をきくチャンスがありました。
 期待がたかまるうちに、発表会がはじまりましたが、少しきいているうちに、これはとんでもない発表会だ、とびっくりしました。
 ほとんどの生徒さんが、楽譜を見ながら、未完成の曲を、何度も何度もつっかえながら、ダラダラ弾いているのです。
 たまに暗譜で弾く生徒さんがいても、曲の途中で暗譜を忘れ、楽譜をもった人が、舞台の袖から走り出てくるのです。
 まともに弾ける友だちがいないのですから、まちがえても平気なのでしょう。子どもたちの顔は、ひどい演奏のわりには晴れやかでした。
 発表会が終わると、にこやかな笑顔の先生を中心に、舞台の上で記念撮影がはじまりました。先生の膝の上には、大きな美しい花束がのっていました。

 私は何ともいえない寂しい気持ちになって会場を出ましたが、このような発表会はもうやめにしませんか。



●江口寿子(えぐち・かずこ)
 国立音楽大学ピアノ科卒。絶対音感プログラムの創始者。ピアノ指導のかたわら、ピアノ教育、音楽教育、音楽心理学、児童心理学を研究。
「一音会ミュージックスクール」(現生徒数2000人)をつくり、こどもたちを指導。ピアノ教師の研究サークル「子どもの音楽を考える会」(現会員数1000人)をつくる。ビデオによる通信教育「PLAS」(受講者数8000人)を行なっている。

●著書
 「おんぷの学校」
 「ピアノの学校」
 「ピアノレッスンを変える」シリーズ (以上 全音楽譜出版社)
 「イメージ聴音ワークブック」
 「リズムワークブック」(共同音楽出版社)
 他多数。

●一音会ホームページアドレス
 http://www.ichionkai.co.jp/



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