子どもの心を見つめて

江口寿子

              
第16回


◆発表会の目的は?


 ピアノの楽しみ方には、二つの楽しみ方があります。
 一つは、自分の楽しみのために弾く楽しみ方です。もう一つは、人を楽しませるために弾く楽しみ方です。

 どちらがほんとうの楽しみ方だとか、どちらのほうがより価値のある楽しみ方だとか、比べることではありません。

 でも、世の中には、自分はピアノを弾けないけれど、ピアノ演奏をきくのが大好きだ、という人が大勢います。

 なので、できれば子どものときから、ききたい人に弾いてあげる楽しみも、知ってほしいと思います。

 さて、発表会について考えるのに、なぜこんな話からスタートするのかというと、発表会では、たとえ子どもの演奏であっても、できるだけこの二つの楽しみ方を体験
させたいと思うからです。

 ただし、発表会をする目的は、この二つの目的の前に、五つあります。

 一つは、子どもにがんばる目標をつくってやることです。発表会は、努力の目標としてうってつけです。ふだんはめんどくさくてイヤがる部分練習などにも、忍耐強く取り組めるようになります。

 二つめは、大勢の人の前で弾く練習をさせることです。大勢の人の前で自分の力を発揮して弾くことは、おとなでもむずかしいものです。自分がどんなふうに弾いた
か、まるでおぼえていないほど緊張するときもあります。その緊張を子どものときから体験させて、緊張を克服させる練習は大切なことです。

 三つめは、先生自身にとって、自分の指導を反省するきっかけになります。発表会でほかの子どもに混じって弾いたときに、レッスンでは気がつかなかったその子の弱点に気がつくことができます。

 四つめも、先生自身の問題ですが、発表会で弾かせるとなると、ふだんより深い指導をしなければなりません。ふだんは、先へ先へと進度ばかり気にしている先生で
も、テクニック的にしっかり、音楽的に魅力的にしあがるまで、目標を高くもって指導しなければなりません。

 五つめは、子どものご両親にとって、発表会は大きな楽しみだ、ということです。わが子が舞台に一人で登場して、立派にピアノを弾く姿を目にすると、「ピアノを習
わせてよかった……」と感じるはずです。

 あるとき、ピアノの先生たちと話していて、発表会の話題になりました。
「発表会は、ピアノレッスンのお祭りのようなものだから、にぎやかに盛りあがれば
いいのよ」という先生がいました。
「子どもの演奏なのだから、もしボロボロにまちがえても、ニコニコ笑えばご愛嬌で
すんでしまうわ」という先生もいました。

 演奏者自身も楽しみ、きく人をも楽しませようという意識が、先生に欠落している
のですから困ります。                (つづく)


●江口寿子(えぐち・かずこ)
 国立音楽大学ピアノ科卒。絶対音感プログラムの創始者。ピアノ指導のかたわら、ピアノ教育、音楽教育、音楽心理学、児童心理学を研究。
「一音会ミュージックスクール」(現生徒数2000人)をつくり、こどもたちを指導。ピアノ教師の研究サークル「子どもの音楽を考える会」(現会員数1000人)をつくる。ビデオによる通信教育「PLAS」(受講者数8000人)を行なっている。

●著書
 「おんぷの学校」
 「ピアノの学校」
 「ピアノレッスンを変える」シリーズ (以上 全音楽譜出版社)
 「イメージ聴音ワークブック」
 「リズムワークブック」(共同音楽出版社)
 他多数。

●一音会ホームページアドレス
 http://www.ichionkai.co.jp/



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