子どもの心を見つめて

江口寿子

              
第14回


◆男の子と女の子のちがい。

 五歳の子どもたちの、グループレッスンがはじまりました。メンバーは、ユキちゃん、マユちゃん、アキナちゃん、アヤネちゃんの四人の女の子と、ダイキくん、タカヒロくんの二人の男の子です。
 これからやることを、先生が説明しはじめました。その説明をききながら、四人の女の子たちは、自分のバッグを引き寄せて、手を動かしはじめています。

「きょうは、このページのネズミさんの絵に、色をぬります。ネズミさんは、二匹いますね。手をつないで、とても仲よしです。二匹のネズミさんを、自分の好きな色でぬりましょう!」

 先生が説明を終わる頃には、四人の女の子たちは、机の上に本を開いて、早くもクレヨンを手に握っています。
 さて、男の子は…… と見れば、指でお互いを突つきあって笑っています。いつものことながら、先生の話など全くきいていません。
 先生は、二人の男の子にむかっていいました。

「あらあら、まだ何も用意ができていない人がいますね。先生のお話、ちゃんときいていたかな?」

「きいてなかった!」

「ぼくも!」

 ダイキくんと、タカヒロくんが、元気にいいました。四人の女の子たちが、クスクス笑っています。笑いながらも、手はサッサと動いて、どんどんネズミさんがぬりあがっていきます。
 先生がとうとう、ダイキくんと、タカヒロくんのそばにきて、バッグの中から本とクレヨンをださせています。足なみがそろわないと、グループレッスンは進んでいかないからです。
 ダイキくんと、タカヒロくんが、やっとネズミさんをぬりはじめました。ぬりはじめると、ぬることに一生懸命です。あまり力を入れてぬるので、二人の鼻の頭には汗の粒が光っています。

「ぬれました〜!」

 先生は、子どもたちが、どんなネズミさんにぬったかを見てまわりました。
 四人の女の子たちは全員、ネズミさんを灰色でぬっていました。ていねいに、はみ出さずにぬってあります。
 二人の男の子たちは…… と見れば、ダイキくんは、ネズミさんをピンクと黄色でぬっています。タカヒロくんは、ネズミさんの絵のあたりを赤でぬりつぶしてしまい、そこにネズミさんの絵があったことさえぼんやりとしかわかりません。
 先生はきょうもまた、ちょっぴり複雑な気持ちになりました。
 扱いやすいのは女の子です。でも、みんなでネズミさんを灰色でぬるよりも、ピンクや黄色や赤でぬったネズミさんのほうが、本物のネズミの色とはちがうけれどステキだ、といつも思うのです。
 でもこれが、男の子と女の子のちがいなのです。
                            (つづく)


●江口寿子(えぐち・かずこ)
 国立音楽大学ピアノ科卒。絶対音感プログラムの創始者。ピアノ指導のかたわら、ピアノ教育、音楽教育、音楽心理学、児童心理学を研究。
「一音会ミュージックスクール」(現生徒数2000人)をつくり、こどもたちを指導。ピアノ教師の研究サークル「子どもの音楽を考える会」(現会員数1000人)をつくる。ビデオによる通信教育「PLAS」(受講者数8000人)を行なっている。

●著書
 「おんぷの学校」
 「ピアノの学校」
 「ピアノレッスンを変える」シリーズ (以上 全音楽譜出版社)
 「イメージ聴音ワークブック」
 「リズムワークブック」(共同音楽出版社)
 他多数。

●一音会ホームページアドレス
 http://www.ichionkai.co.jp/



第15回へ

バックナンバー “index”へ

Topへ