子どもの心を見つめて

江口寿子

              
第12回


◆叱られつづけると自信をなくす。

 ユキちゃんは、いつも自信がありません。ユキちゃんは、二年生です。
 ある日のリトミックのレッスンで、先生が、「やってみたい人は手をあげてくださ〜い」といいました。先生が叩くリズムをきいて、そのリズムを《リズムカード》でならべる、という課題でした。
 「ハーイ」と、お友だちは、先を競って元気に手をあげました。やかましいほどです。その中で、きょうもまた、ユキちゃん一人が手をあげません。
 おまけにその表情は、いまにも泣きそうにベソをかいています。ユキちゃんは手をあげていないのですから、指名されることはありません。それなのに、もし自分が指名されたらどうしよう…… と、不安でたまらないのです。それほど、ユキちゃんは自信がないのです。
 ユキちゃんの自信がない態度は、ほかのことについてもあらわれています。
 たとえば、いっぱい練習して上手に弾けるようになった曲でも、突然、メロメロに弾けなくなってしまいます。ほんとうはスラスラ読める音符も、突然、読めなくなってしまうのです。
 自信がないユキちゃんは、いざというときになると、自分の実力をほとんど発揮できません。おそらく、学校でも同じようなことが起こっているはずです。
 先生は、そんなユキちゃんの姿を見るたびに、何とかして自信をもたせてやりたいと、励ましたり、ほめたりしてきました。が、自信喪失は成長とともに、むしろひどくなるばかりなのです。
 ユキちゃんがこんなふうになったのは、お母さんに原因があるのではないか、と先生は思っています。
 ユキちゃんのお母さんは、一人っ子のユキちゃんを、とても愛しています。でも、愛すれば愛するほど期待も膨らみ、目標も高くなるのでしょう。
 ユキちゃんをほめることを、まったくしないお母さんなのです。すぐ横にユキちゃんがいるのに、口をきわめて、ユキちゃんの悪口をいいつづけます。
 ユキちゃんは、はじめのうち目をふせて、ジーッときいています。そのうち、ユキちゃんの大きな目から、大粒の涙がポロポロとこぼれて、床の上に涙の小さな池ができてしまいます。
 子どもに自信をもたせるためには、ほめることが大事です。ほめられれば、自信がつきます。自信がつけば、失敗が減ります。そして、成功する体験を積むことができます。
 成功する体験を積むと、ますます自信がつき、はじめてのことやむずかしいことにも、果敢にチャレンジできるようになります。
 しかも、その体験は子どものときに積むことが大切で、子どものときに体験した成功の糧は、その人がおとなになってからも、積極的で、粘り強い性格となって、力を与えつづけていきます。


●江口寿子(えぐち・かずこ)
 国立音楽大学ピアノ科卒。絶対音感プログラムの創始者。ピアノ指導のかたわら、ピアノ教育、音楽教育、音楽心理学、児童心理学を研究。
「一音会ミュージックスクール」(現生徒数2000人)をつくり、こどもたちを指導。ピアノ教師の研究サークル「子どもの音楽を考える会」(現会員数1000人)をつくる。ビデオによる通信教育「PLAS」(受講者数8000人)を行なっている。

●著書
 「おんぷの学校」
 「ピアノの学校」
 「ピアノレッスンを変える」シリーズ (以上 全音楽譜出版社)
 「イメージ聴音ワークブック」
 「リズムワークブック」(共同音楽出版社)
 他多数。

●一音会ホームページアドレス
 http://www.ichionkai.co.jp/



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