2004.7月 第64号


どんな時にも自分らしく、
100%の実力を発揮しよう!!
メールマガジン「コンクール勝利学」発行に寄せて


スポーツドクター
辻 秀一


「ここ一番!」という時に、自分の実力やそれまでの練習の成果を余すところなく発揮できたら、それはどんなにうれしく、次なる目標への原動力となることでしょう。いつでも、どんな時にも100%の実力を発揮するには?
「勝つ」をテーマに多数の書を執筆され、現在音楽指導者を対象とした『コンクール勝利学』を、メールマガジンにて配信されているスポーツドクター・辻 秀一先生にお聞きしました。

☆「自分らしさ」を発揮するために

―― 現在配信中のメールマガジン『コンクール勝利学』は、そのタイトル、内容ともに大変興味深いものですが、そのベースとなる「辻メソッド」とは、どのようなものですか?

 私の職業は「スポーツドクター」といって、スポーツ心理学とスポーツ医学をもとにした「パフォーマンス・エンハンスメント(=その人らしさや、発揮される実力を伸ばしていくこと)」を専門にしています。この度の「辻メソッド」では、音楽家のための「パフォーマンス・エンハンスメント」を皆さんにご紹介しています。
 現在配信しているメールマガジンでは、コンクールで100%の実力を発揮することをテーマに、そのためのアプローチ法を簡単に紹介していますが、辻メソッドの最大のテーマは「自分らしいパフォーマンス」を高めていくことです。そのパフォーマンスとは、コンクールで勝利することだけではなくて、発表会かもしれないし、日々ピアノを弾くことを楽しむことかもしれない。
 「自分らしいパフォーマンス」に欠かせないのが、「心」と「身体」と「技術」。この3つをバランスよくトレーニングしていくことが大切です。この中で、「技術」については比較的数値化や評価がしやすく、さまざまなトレーニング法が開発されています。また、「身体」についても、健康管理や技術を支える機能向上などの視点から少しずつ扉が開きつつある。しかし、パフォーマンスや自分らしさを最終的に作っている「心」については、まだぼんやりと曖昧なままです。だから、辻メソッドでは、特にその「心」にフォーカスしていきたいと思っています。

☆「セルフイメージ」が、すべてのパフォーマンスを決定づける

―― なるほど。では、より詳しくご説明いただけますか?

 1976年のモントリオール・オリンピックの射撃部門金メダリストのラニー・バッシャムという人が、自分の実践を通して提唱した「メンタル・マネジメント」という理論があります。彼はこの理論の中で、勝つために必要な心の要素として、「下意識」と「セルフイメージ」を挙げています。「下意識」とは、ある動作をする時に「この筋肉をこう動かして……」と意識しなくても自動的に行なえる力、すなわちスキルのこと。そして、「セルフイメージ」とは、その下意識の働きを調節している因子のことです。私自身は「心のコンディション」とか「心のエネルギー」という言葉に置き換えたりもします。辻メソッドでは、このセルフイメージが、いかに自分のパフォーマンスに影響を与えているかということを、いろんな事例を通して学んでいきます。
 セルフイメージのいいところは、例えば「今日はいやなことがあったからセルフイメージが小さい」「これから発表会だと思ったらセルフイメージが急に小さくなってしまった」というふうに、状態をわかりやすく表現できることです。また、それらはその時々によって、非常に揺らぎやすいものでもあります。なぜセルフイメージが揺らぎやすいのかというと、セルフイメージは感情に影響を受けているからです。人間には感情が常に起こっているので、感情について知ることはとても重要です。
 また、セルフイメージは、次の4つの因子に影響を受けます。
 一つ目は
「環境」。例えば暑い/寒い、広い/狭いといった要因をすごく受けます。
 二つ目は
「経験」。人間は過去の出来ごとに影響されますし、感情の記憶中枢があるため、その時の具体的な記憶はなくても、感情だけは覚えていたりする。だから、今うまくいかないのは、原因が過去にあってその経験を掘り下げていかないと修正ができない場合があります。
 三つ目は
「他人」。ピアノを弾いている子どもだったら、お母さんや友達、先生の影響を受けます。
 人のセルフイメージを大きくしてあげられる能力のことを「コーチ力」と言いますが、指導者にコーチ力がないと、生徒の技術的なスキルは上げられるかもしれないけれど、セルフイメージは小さいままです。したがって、メソッドの中ではコーチ力についても勉強していきたいと思っています。
 四つ目は
「自分」。ひとつは自分の体調。疲れているとセルフイメージは小さくなります。例えば試合では後半に疲労してくる時が非常に大事で、疲労そのものよりも、セルフイメージが小さくなることで負けたり失敗したりする場合もあるんです。だから、体調の管理についても学んでいく。
 そして、もうひとつは、その時「自分がどう考えるか」。実は、セルフイメージに多大なる影響を与える4因子の中で、最後の「どう考えるか」という部分しか、コントロールできる部分はないんですよ。環境も、過ぎてしまった経験も、他人のこともコントロールできないし、自分の体調も、その瞬間になってしまうと、もうコントロールできない。でも、その時「自分がどう考えるか」ということはコントロールできる。だからそこにフォーカスを置いて、セルフイメージを自分で大きくしていくことが大切です。

☆いつも「今」を生きる!

 また、セルフイメージは時間の区別ができないので、例えば「さっきああやらなければよかった」と思って弾いてると、現在のセルフイメージが小さくなって失敗してしまうし、一方、未来のことについて不安に思っていても、未来のセルフイメージが小さくなるんではなくて、現在のセルフイメージが小さくなってしまう。だから、いつも「今」に生きられるように、「今やるべきことは何か」というアクションフォーカスをする。スポーツでは「準備する」と言うんですが、結果はコントロールできないけれど、準備はコントロールできるから、準備に余念なく行きましょう、丁寧に、一生懸命準備をしましょう、という心の習慣を持つことが大切です。
 一流の結果を出している選手は、環境や経験や他人の影響をほとんど受けないで、いつもセルフイメージを自分でキープしています。例えばイチロー選手。彼は一打席、二打席、三打席と凡退しても、四打席目にそれまでの経験の影響を受けません。普通はそういう状況になると、たとえ四打席にど真ん中の玉が来ても、セルフイメージが小さくなっているために、彼のようには打てませんよね。
 また、彼らはマスコミやファンの影響も受けにくいですね。それは、彼らはそういったメンタルトレーニングを受けて、セルフイメージを大きくするように心がけているからなんです。辻メソッドでは、そういう自分自身のコントロールできる部分でどうやってセルフイメージを大きくしていくかということを、いろんな例を使って学んでいきます。セルフイメージをいつも大きくできるようになれば、自分のパフォーマンスを常に発揮することができるので、いつも自分らしく輝けるようになりますから。

―― それはおもしろいですね。いろんな発見がありそうです!

 その他にも、いい心の習慣作りのために、いい言葉(ポジティブ・ワード)の使い方、いい表情(ポジティブ・フェイス)の練習などもやります。また、スタンダードなコースのあとには個別対応のアドバンスコースも予定しています。
 人間が生きている限り、自分のパフォーマンスに「下意識」と「セルフイメージ」は必須です。どんな環境の中でも、いかに最高のパフォーマンスを出していくか。その方法を、ぜひ多くの人にぜひ知ってもらいたいと思います。(完 )

                              
(取材・文 LPO編集室)

●プロフィール

1961年、東京生まれ。北海道大学医学部卒業。慶應義塾大学医学部にてない科学を学んだ跡、スポーツ医学を専門とする。プライベートオフィス“エミネクロス”(東京・南青山)(03-5474-3755)にて、QOL(クオリティ・オブ・ライフ)をテーマに個別カウンセリングやメディカル事業・スポーツ事業を展開している。スポーツ選手の「心」と「体」のコンディショニングをさまざまなスポーツの子どもや大学チーム、障害者からプロ・オリンピック選手までチームドクターとしてサポートしている。全日本男子車椅子バスケットボールチームドクター。子供のためのスポーツ塾、“チームエミネクロス”と車椅子選手やトッププレイヤーによるバスケットチーム、チアリーディングにより構成された理念共有型スポーツクラブ“エミネクロススポーツワールド”を運営構築中。日本体育協会公認スポーツドクター。また企業、教育機関などに独自の「勝つ」をテーマにした講演や執筆活動を積極的に行う。「スラムダンク勝利学」(集英社インターナショナル、2001)「人のためになる人ならない人コーチ力」(バジリコ社、2002)「子どもの「生きる」力を伸ばす3つの習慣」(PHP研究所、2002)、「ほんとうの社会力」(日経BP社)、「弱さを強さに変えるセルフコーチング」(講談社α新書)、「風の大地 人生勝利学」(小学館)など著書多数。
http://www.eminecross.com

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★今秋、辻先生の新刊が刊行予定!
  アメリカの音楽大学で教材としても使用されているメンタルトレーニングの本“The Inner Game of Music”の翻訳書が11月に音楽之友社から、「コーチ力」をテーマにした書き下ろし本が秋以降にヤマハミュージックメディアより出版予定。乞う御期待!



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