2003.9月 第54号
“クラシカル・クロスオーバー”な
歌曲を美しいアレンジとCDで楽しむ
「癒しのアリア」
「麗しのアリア」
―― 美しいメロディを奏でる究極の歌曲集
作編曲家
石川 芳さん
リットーミュージック編集部
副田つづ唯さん
サラ・ブライトマン、シャルロット・チャーチらが歌う、美しいオペラ・アリアやクラシック歌曲をステキなピアノアレンジに仕上げた「癒しのアリア」「麗しのアリア」(リットーミュージック 刊/各1800円)。この曲集のコンセプトを、アレンジを手がけられた石川芳さんと、リットーミュージック編集部の副田つづ唯さんにうかがいました!
◆歌曲による「癒し」
―― まず、出版のコンセプトからお聞かせいただけますか?
副田 今回の曲集のコンセプトは、「歌曲による癒し」です。これまで各出版社から癒し系の曲集は多く出されていましたが、その中で「ピアノ弾き語り」という形態のものはほとんどありませんでした。一方、「feel」をはじめとする癒し系のCDには歌ものも入ってますし、中にはすごくいいメロディがいっぱいあるので、それらを集めて曲集が作れないかと考えました。
―― 選曲はどのように?
副田 通常は、選曲も含めたコンセプトを編集サイドで組んでからアレンジを発注するという方法を取りますが、この曲集に関しては初めから石川さんにアレンジをお願いしようと思っていたので、選曲の段階から一緒に関わっていただきました。
石川 最初はやはり一般の人たちに知られている曲ということで、CMや映画で使われている知名度の高い曲を中心に、曲集のコンセプトに見合う「品格」をもっているか、ピアノにアレンジして美しいかどうかなどを考えながら選択していきました。候補はもう山のようにあって、それこそチャットのように(笑)煩雑に編集部とメールのやりとりをしながら選んでいきました。
一方、新刊「麗しのアリア」では、一作目の「癒しのアリア」である程度の手ごたえを感じていましたので、話題の曲は盛り込みながらも、さほど知名度は高くないけれど、私自身が好きでずっと温めてきた曲などもリストアップしていきました。
副田 「シェナンドー」がそうでしたよね。
石川 もともとはアメリカの民謡ですから、混声合唱や男声合唱など、いろんなCDがあるんですね。その中で、今回収録したルネ・フレミングが歌っているCDを見つけた時は本当に感動したよね。曲集のコンセプトにもバッチリ合っていたし、原曲アレンジもすごく美しかったし。
副田 今回のこれらの曲集は、アーティストの括りで曲を紹介しているので、例えば、まずサラ・ブライトマンやヌーノなどのアーティストを立ててから曲を選ぶ「人から選ぶ」方法と、まず曲を選んでから、誰のバージョンにするかという「曲から選ぶ」方法で選曲を進めていったんです。その両方のやりくりは結構大変でしたし、一冊の歌曲集の中にクラシック、ポピュラーの両方を含んだ編集にするというのも、ある意味実験的ではありました。でも、そんな風に難しく考えているのは出版社側だけだったのかなというのは、読者の反応が良かったことでわかりましたが。
―― 音楽ジャンルがどんどんボーダーレスになっている今、こういう編集形態はニーズに合っているのかも知れないですね。
副田 使い方に関しても、読者ハガキを見ていると「CDをカラオケにして歌っています」という方や、ピアノのパートにもメロディラインが含まれているので、「ピアノソロとして楽しんでいます」など、自由に使って下さっているようです。

サラ・ブライトマンの楽曲紹介ページ
(「麗しのアリア」より)。
楽曲解説、演奏のポイントのほか、
収録アルバムの紹介も。
さらに巻末には歌詞の読み方なども
収録、とにかく親切なつくりです!
◆「品格」は下げたくなかった
―― さて、これらの曲集の魅力として欠かせないのがアレンジですが、アレンジのコンセプトとは?
石川 今回は歌曲のアレンジですから、メロディが確実に聞こえること、そして原曲のイメージに忠実でありながら、技術的に難しすぎないこと。さらにピアノの音色が一番きれいに聞こえること。また、今回は楽譜だけではなくCDもついていますので、ピアニストが実際に弾くことを想像して考えたアイデアもあります。ただ、やり過ぎてコンサートスタイルのようになってしまうと多くの人には使ってもらえないので、「どれだけ音の数を少なくしてもきれいに聞こえるか」については随分考えました。でも、「品格は下げたくない」ということが私と副田さんの心の中にはいつもあって、単なるメロディと伴奏コード、というようなアレンジにはしたくなかった。私も副田さんも、学んできたベースはクラシックということもあって、いろんな話をしていく中で、そういったコンセプトが合致していったんですね。それがなければこの曲集は生まれていなかったかも知れません。
副田 でも、歌ものをピアノで表わすことはとても難しいですね。特にオペラの曲の場合、実際に歌うメロディもピアノで弾くというのは、アレンジャー泣かせだったのではないかと。
石川 オペラのアレンジについては、本当に大変でした! ともすれば何百年もの歴史をもつオーケストラやピアノの伴奏譜に、メロディも織り込まなくてはいけない。また、オリジナルの歌の楽譜をピアノで弾いても、言葉の節回しで音符が装飾的に動いていたり、長く伸ばしても意味を成さなかったりと、楽譜通りに生きない場合もあります。そういうところをピアノが美しく歌うフレーズに置き換える作業をするのですが、やり過ぎると「歌はそうなってない」と言われる場合もありますので、そういう「頃合い」はすごく考えました。また、フォーレの「月の光」(「麗しのアリア」に収録)なんかは特にそうで、伴奏と歌のメロディがまさに同じ音域に重なってしまう場合、さあどうする? というような。
副田 バッハの「インヴェンション3声」みたいですよね(笑)。
石川 でも、そういうクイズを解くようなアレンジは本当に大好きで、挑戦したいという気持ちもあるので(笑)。

新作「麗しのアリア」の表紙。
前作「癒しのアリア」と同様、
上品な色合わせと両サイドの曲線が
とっても美しい仕上りです。
◆人間にしかできない表現を
CDで伝える
―― CDのクオリティも非常に高いですね。これで1800円はお買い得です!
石川 CDについては、「癒しのアリア」では伊賀あゆみさん、そして「麗しのアリア」では伊賀さんと関春絵さんに模範演奏をお願いしましたが、これは大成功でした。彼女たちとは仕事で何度かつき合いがあり、すでに気心の知れた仲間だったので、私のアレンジの意図をちゃんと読み取ってくれましたね。録音ではアコースティックピアノではなく電子ピアノを使い、彼女たちも初めての驚きがいっぱいあったようですが、とても努力するお嬢さんたちで、本当によく弾いてくれました。
副田 やはり人間にしかできない表現があるので、それをCDで聴いてほしいと思いました。模範演奏なので、それが当たり前だと思うんですよね。DTMによる打ち込みと、人が実際に弾く違いは非常に大きいと思います。
石川 絶対大きいですよ、呼吸が違うもの。時には私たちもDTMで打ち込みもしますが、今回は最初から選択肢に入れてませんでした。やっぱりピアノは実際に弾かなきゃ、という思いがあった。そういった意味では、今回のCDは楽譜と切り離してリスニング用としても、それなりの質感があるものに仕上がっていると思います。
―― 今後の反響も楽しみですね。
石川 現場の先生方のご意見は、たとえそれがいいことであっても悪いことであっても、ぜひお聞きしたいです。新しい企画を考えるヒントになりますから。
副田 実際、「麗しのアリア」を作るにあたっては、「癒しのアリア」の読者ハガキを参考にさせていただいているんです。読者の皆さんをはじめ、多くの方の意見を取り入れながら楽譜を作っていく方向性は、これからも持ち続けていきたいと思います。また会社としても、読者ハガキを送って下さった方の中から毎月抽選で30名様にお好きな商品をプレゼントするキャンペーンも行なっていますので、「こういう曲集がほしい」というご意見をお待ちしています。
石川 そういうご意見にも応えていけるように頑張りたいよね。
副田 やっぱり応えてほしいですよね、もし私が買う側だったら。
石川 うん、それは絶対にそう。こういうのがほしいって書いてるのに、なんで出ないの? ってことあるじゃない。
副田 大丈夫、全部チェックしてますので!
( 完 )
(取材・文 LPO編集室)
◆石川 芳(いしかわ・かおる)プロフィール
作編曲家。東京都出身。幼少よりピアノ、エレクトーン、作曲を学ぶ。第8回エレクトーン・コンクール・グランプリ大会ジュニア部門第3位受賞。ネム音楽院(現:ヤマハ音楽院)卒業後、ヤマハの海外デモンストレーターとして、北欧、中南米、東南アジア、オセアニアの各国で演奏活動および現地スタッフの指導にあたる。ディズニーワールドMGMスタジオ協賛記念ディズニー・クラシカル・コンサートにおいて、アレンジャーとしてデビュー。7つのペンネームを持ち、電子楽器の活用ガイド制作をはじめ、音楽専門誌への執筆、教育ソフトの音楽制作、楽曲の編曲など、幅広いジャンルで活躍。洗足学園大学非常勤講師。 |