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1999.8月 第5号
リトミックで心とからだの
バランスの取れた音楽を!
石丸由理
●リトミックのはじまり
リトミックの創始者、エミール=ジャック・ダルクローズは、人の心の動きによって生まれるからだの動きや行動に注目して、リズムを上手に取り入れることで、心とからだのバランスの取れた音楽家を育てようとした人です。
ある日、ジュネーブの街を歩いていたダルクローズは、たまたま目の前を楽しそうに歩いている自分の生徒に目を止めました。その少年は、レッスンの場面ではとても良い耳を持っていたにもかかわらず、リズム感に欠けていたのです。しかし、目の前をリズミカルに歩く少年の姿から、彼は少年が無意識に歩きながらリズムを表現していることに気がつきました。
この発見から、ダルクローズは生活の中の自然なリズムを筋肉の知覚運動にして自分自身で意識し体に蓄えることによって、音楽を自由に表現できるからだを作り、音楽をより豊かに表現できる手段にすることを考えました。そして、人の持つ五感(視覚・聴覚・味覚・嗅覚・触覚)に加え、筋肉の感覚を「第六の感覚」として育て、音楽を全身で感じ取ることで、音楽をより豊かに表現する手段としてのリトミックを生み出したのです。
●音楽は体全体で受けとめ、理解し表現するもの
私たちが身体表現をする時には、時間(Time)、空間(Space)、エネルギー(Energy)…… つまり動きの速さ、大大きさ、強さ、の相互関係が生まれます。動きの表現に使われる、高い・低い・ゆっくり・はやい・大きい・小さい・元気に・そっと・なめらかに…… などの言葉は、音楽で使われる「高さ」「速さ」「強さ」(楽音の3要素)、「ニュアンス」…… などと共通した言葉です。つまり、音楽は、耳や眼、頭だけで理解するものではなく、リズム、ダイナミックス、感動や感情などを全身で経験し、理解して表現するものです。これは、私たちが楽器を演奏する場合、いつでも関わってくる大切なことです。ピアノのレッスンでは、そのような音楽における様々な局面を一つ一つの曲の中から学んでいきますが、リトミックではそれらの局面を総合的に捉えて学んでいくことができます。
音楽を学ぶ上で必要な課題を動きを通してして学んでいく「ダルクローズ・サブジェクト」の中には、基礎リズム(音を空間で表現する)、ダイナミックス、フレーズ、拍子…… などに加え、音楽をより深く理解するためのサブジェクトとして、アクセント、サイレンス、複合リズム、シンコペーション、変拍子、不等拍子……、普段あまりなじみがないとは思いますが、リトミック特有なアナクルーシス(準備)、クルーシス(行為)、メタクルーシス(帰着)、アゴーギク(ニュアンス)、2対3、3対4などのリズム、
縮小・拡大、トランスフォーメーション(8分の6拍子と4分の3拍子の変換)などがあり、リトミックによって音楽の本質を捉え、音楽構成のしくみのより明快な理解へとつなげていきます。
●リトミックの実際
リトミックのレッスンでは、教師がピアノを即興演奏し、生徒はそれを聴き、自分自身の身体を使って空間を動き、音楽に対応します。したがって、教師の演奏する音楽は、からだの動きの「音のイメージ」になります。つまりリトミックは、生徒自身が音楽にからだを感応させることによって、音楽に対応する感情を動きのかたちで表現することになり、心とからだが結びつくことになります。
また、ダルクローズ本人から学んだジョン・コ―ルマンは「リトミックのレッスンは、常に新しい音楽経験の積み重ねでてくれることは大変嬉しいことです。しかし、中にはリズムだけに注目して、音楽を忘れたり、置き去りにしているレッスンや、偏ったサブジェクトのみのレッスンだったり、音楽の持っている可能性を活かしきらないレッスンが目につきます。リトミックは、リズムを正確にすることを学ぶものではありません。音楽を使って音楽を学ぶための総合教育で、良い耳を育てること、感覚、空間、筋肉の感覚を育てることによって、より音楽的な表現を目指すことが、指導者にも生徒にもいつも求められています。
●プロフィール
国立音楽大学、ロンドン・ダルクローズ研究所卒(リトミック国際免許取得)。ニューヨーク大学・大学院修了。
現在、ユリ・リトミック教室を主宰し、幼稚園・保育園の研究会、幼児研究会、NHK各四曲のイベント企画、出演等を行なう傍ら、教材等の執筆も行なうなど、多方面で活躍。
●著書
「ともだちのーと 0〜6」
「ともだちわーく 1・2」
「ともだちピアノ A〜E」
「ともだちソルフェージュ 初級編〜中級編」
「リトミックピアノ曲集」
「ダルクローズのリトミック」ほか多数(いずれもドレミ楽譜出版社) |