2003.4月 第49号



*どんなレッスンができる?

1才からの
ピアノ・レッスン

遠藤蓉子先生


  近年の少子化とともに顕著となってきているのが「早期教育のすすめ」。知育・才能教室と同様、ピアノ教室への入門希望者もどんどん低年齢化していると聞きます。
  ピアノ教室における早期教育の意味、具体的なレッスンの展開法…… そう、今こそじっくりと向き合う時なのです。
  …… ということで、今回は、乳幼児を対象としたユニークなレッスンを実践、その解説書
「1才からのピアノ・レッスン」(サーベル社/1800円)をはじめとする教材も数多く手掛けられている、遠藤蓉子先生にお話をうかがいました!

♪実際にピアノを弾く、
       来たるべき日に備えて。

―― 1才からのレッスンをやろうと思われたきっかけは?

 最初から1才のレッスンをやっていたわけではなく、約10年前に教室を始めて3才のレッスンをやっていたら、2才の生徒さんが入会したのです。そして、2才のレッスンをやっていたら、今度は1才の生徒さんが入会するようになりました。また、その間にグループ・レッスンでたくさんの子どもたちをレッスンしているうちに、ある程度レッスンのやり方がわかり、さらにそこから個人レッスンのやり方もわかってきましたので、一応のカリキュラムとしてまとめることができました。
 最初はお手本もないし、できるかどうかもわからなかったのですが、やっているうちに私自身がとてもおもしろくなってきて、小さい子のレッスンの研究に夢中になりました。

―― では、具体的にはどんなレッスンが展開できるのでしょう? その年齢の生徒さんはもちろんピアノは弾けないわけですし……。

  ピアノへの導入についてはいろいろな考え方があると思いますが、私自身はピアノを実際に弾く年齢を、大体3才の誕生日前後としていますので、3才になったとき、スムーズにピアノのレッスンが受けられるような準備をします。
 そのレッスンを、私は「ウォーミングアップ・レッスン」と呼んでいますが、リズムや音感はもちろん、一日も早くピアノのレッスンに入れるよう、その他の色や形や数などの基礎能力の開発も行ないます。
 また、遊びの形をとりながら、ピアノを弾くときに必要となる集中力や注意力、記憶力なども訓練します。つまり、ピアノのレッスンに入る準備をしながら、その日を一緒に有意義に過ごして待ちましょうということです。

―― ウォーミングアップ・レッスンを経ることで、後のレッスンにはどのような効果が期待できますか?

 音感やリズム感の育成には、もちろんとても効果があります。すぐに目に見える形で評価することは難しいのですが、人間そのものが音楽的といいますか、音楽がとても好きになると思います。
 そして長期的な効果としては、リズムの安定、音楽そのものを楽しむ姿勢として、その後のピアノの演奏に現われてきます。また、必ずしも絶対音感がつくとは限りませんが、よい耳を作ることは、後になってからではできない、とても大切なことです。また、2才の後半からは具体的に音符やリズムを学びますので、ほとんどの生徒がピアノを弾く前に音符が読めるようになっています。
 一方、3才から入会した生徒の場合は、音符を覚えながら同時にピアノを弾く練習に入りますが、ウォーミングアップ・レッスンから始めている生徒は、すでに音符を覚えていて、弾くことのみに集中できますので、進歩も早く順調に進んでいくことができます。

♪「ものを習う」上での
        “しつけ” も大切。

 また、小さい時から一緒にレッスンすることにより、生徒との間に深い絆が生まれ、ピアノのレッスンに進むための、あらゆるしつけ≠楽しく遊びながら身につけることができます。
 例えば、小さい子は最初はとても自分勝手ですから(笑)、ピアノのレッスンに進むためには、ある程度先生の言うことを聞く練習をしなくてはいけません。そうしなければ、レッスンが前に進まないからです。とはいえ、最初は何もわからないので、とにかく友達になって一緒に遊んであげるのですが、少しずつ先生がリーダーであることをわからせて、その自分勝手なところを3才の誕生日までにマイルドな方法で良い方向に導いていきます。
 具体的な目標は音感やリズム感をつけることですが、ピアノのレッスンを受けるということは「ものを習う」ということなので、やはり自分勝手なままでは上達できません。楽しいレッスンの中で「これをしましょうね」と先生が言ったら、すぐにそれに即応できる練習を細かく積み重ねていくのが私のやり方です。

―― なるほど。でも、小さい子のレッスンは言葉が通じないこともあるだけにとても難しそうです。保護者との関係も含めて、何かうまくいく秘訣のようなものはありますか?

 具体的なレッスン方法につきましては、著書「1才からのピアノ・レッスン」で述べていますが、個人レッスンにおいては、どういうふうにという決まった方法はないと思います。その子の素質もありますし、家庭環境などのさまざまな外的要因によっても一人一人違いますので、よく観察して、その子のその時期に最もふさわしいレッスンをするということが大切です。でも、コツをつかんでしまえば難しいことではありません。大切なのは、とにかく真っ白な気持ちで全身全霊で取り組み、今やっていることが将来につながるとても重要なことだと確信して自信を持って臨むことです。日々のレッスンでは、さまざまな問題点に直面するかもしれませんが、その子をよい方向に導くことを第一に考え、現在の問題点の原因をよく考えると、おのずと対処の仕方がわかってきます。
 小さい子のレッスンは、それは楽しくてかわいいのですが、うっかりすると、つい甘くなって生徒の言うなりになってしまいやすいので、常にコントロールして真剣に取り組んでいます。
 保護者との関係も、3才以下のレッスンにおいてはとても重要で、お母さんの協力なしにはレッスンすることはできません。こちらのレッスンを押しつけないで、お母さんの教育方針や要望をよく聞いて、できるだけそれに合わせたレッスンをするようにしています。

♪さらに研究を重ねていきたい。

―― 昨年からは、全国で公開講座も行われていますね。

 講座に関しては、私自身がとても勉強になりました。受講された先生方がとても熱心に小さい子のレッスンをなさろうとされていること、またそこにすごく不安を持っていらっしゃることがわかりました。毎回それぞれの会場であらゆる細かい質問を受けますので、そこからまた私自身の研究テーマが広がっていきます。
 「1才からのピアノ・レッスン」の講座に来て下さるのは、ある程度ベテランの先生方が多いのですが、1才から3才までのレッスンをこれから新たになさろうとされているということ、またそれは、小さい子のレッスンが必要とされているということに私自身が刺激を受け、もう少し研究してみようという気持ちになっています。講座にいらっしゃる先生方の熱気がすごいので、私も全力投球でぶつかるようにしています。

―― 読者へメッセージをお願いします。

 小さい子のレッスンは本当に楽しくて、やりがいのあることです。早期教育が盛んな現代においては、ピアノに通じる総合的音楽教育として、小さい子のレッスンが求められていると思います。
 私も最初はいろいろな失敗をしながら、やっているうちに小さい子のレッスンが好きになっていきました。キラキラした瞳の中に宿る、無限の可能性を見いだす時、私は自分の仕事に誇りを持って一生懸命取り組みたいと思います。
 まだ小さい子のレッスンをなさっていない一人でも多くの先生方に、ぜひ挑戦していただきたいです。私も、これからさらに研究を重ねて、いろいろな教材を作っていくつもりです。どうぞよろしくお願いいたします。     
                                
  ( 完 )

                        (取材・文 LPO編集室)

◆プロフィール

ピアノ教育研究家。1991年よりテキスト執筆活動を開始。1996年より独自の音楽教室ビジネスを実践。1才から年配の方まで幅広く指導。日々のレッスンの中から、わかりやすく時代にマッチしたテキストを多数執筆。

◆著 書

「1才からのピアノ・レッスン」「おんぷ・にこにこ・ワーク」
「こどもの初見奏」「おとなのためのポピュラー・バイエル」
「青い空とピアノ、そしてコーヒーと私」(以上サーベル社)
                                他多数。



第50号へ

バックナンバー“index”へ

Topへ