2003.2月 第47号
*いま話題の本の著者の先生にインタビューしました!
ピアノがうまくなる子、
ならない子
池田陽子先生
さいとうみどり先生
ベテラン指導者ならではの鋭い視点と、タイトルの強烈なインパクトから、昨年夏に出版されて以来、大きな反響を呼んでいる「ピアノがうまくなる子、ならない子」(池田陽子・さいとうみどり 共著/情報センター出版局
刊)。今回は著者の池田陽子先生・さいとうみどり先生に、出版のきっかけ、昨今のレッスン事情などについてお話をうかがいました。
◆やっぱり、親の心構えは必要です。
―― この本を出されたきっかけとは?
池田 もともと私たちは、音楽教室で講師の指導をしていたんです。そこでは「生徒が長くレッスンを続けられるには?」ということを、経営的にも音楽的にも考えなくてはいけない立場にありました。そういう中で、大人でも子どもでも、その人が伸びていくには、こうすればいいのでは? と感じていることがずっとありました。
ただ、そういうことは先生同士では話していても、親には遠慮があって話せなかったり、うまく伝わらないというもどかしさがありました。そうした中で、インターネットで音楽教育をするというプロジェクトに参加することになって、いろいろな話をしていくうちに、『こうすればピアノがうまくなる』という話を本にしてみませんか、ということになりました。
さいとう 私たちが子どもの頃は、「先生」という存在は今よりもっと威厳があったように思いますし、親も「うちの子をお願いします」と、何もかもきちんと整えて連れて行っていた。だから、子どもにもそれなりの覚悟があったように思います。でも今は、先生と親、そして子どもの間でそういう覚悟ができていない。例えば音楽教室の募集期なんかでは「○○ちゃんも行くから」「楽しそうだから」というふうに、勢いでドッと入ってしまう。だけど、いざ始まってみるとこんなに大変だったんだ、ということからいろんな障害が出てきて、続かなくなってしまう。でも、もしも教師と親が協力して上手に誘導することができれば、その子はピアノをやめることなくうまくなっていけるかもしれませんよね。だからやっぱり、「親の心構えは必要です」ということはきちんとお伝えしたいと思いました。
池田 とかく、レッスンがうまくいかなくなった時は人のせいにしてしまいがちだけど、一番大事なのは、子どもにとって何が大切かということですよね。今回のこの本は、親がしっかりしなくてはという方向で書いたけれど、子どもにとって一番影響力があるのは親だから、やっぱり親の心構えを書きたかった。
◆「厳しい」って、どういうこと?
―― 先生方が生徒だった頃のレッスンと今のレッスンって、やはり違ってきてるのでしょうか。厳しくなくなってきている?
さいとう まず「厳しい」ということについて考えてみる必要があると思います。
あるピアニストの方がドイツに留学して初めてのレッスンの時、先生に「あなたと私は今日から手を組んで、音楽を一緒にやっていきましょう。二人でお互いに考えながら、あなたのピアノをよくしていきましょうね」と言われてびっくりしたそうです。「教えるってこういうことだったのか」って。
厳しいことはもちろんいいことなんですが、必要以上にガーッと怒ることが厳しいことではないかもしれないし、やさしい口調でも、その内容はとても厳しいことだってある。一方、「楽しくできますよ」と、楽しいだけの人もいる。それでは困ります。責任はちゃんと取らなくてはいけない。「あなたは音大に行くから厳しくしましょう」「あなたは音大には行かないから楽しくやりましょう」というのは違うと思います。
池田 多分これからの世の中、ただ厳しいだけでも楽しいだけでも教育はうまくいかない。すると、教える方もその方法を考え直さなくてはいけない。最終的には人間的な心のふれあいが感じられないと、生徒はついてはこないと思っています。
◆まず、自分のこと、自分が思うことを 話してみよう。
―― そうなると、技術や音楽知識以外に「コミュニケーション能力」も求められてくると思いますが、特に若いキャリアの浅い先生はどうしたらよいのでしょう?
さいとう 私も若い頃は、早くベテランになりたかったんですよ。「若い子が何を言うのぉぉ!」って思われるんじゃないかと思ってビクビクしてました。でも、「私は先生からはこういうふうに教わって、親とはこんな話をしました。お宅はどうですか?」というように、自分の子どもの時の経験と絡めて話し、親の意見を聞くようにしていったことは結構役に立ちましたね。
池田 逆に、今のお母さん方もコミュニケーションが下手ですよね。上手そうに見えて、実は上っ面だけだったりね。そして、先生に対してはすごく受け身。そうすると、どうしても先生の方が「こうですよ」と親子に教える立場になる。もちろん、音楽のことは教えますが、話し合えるようになるには、自分が思うこと、自分のことをまず相手に話してみてはどうかな、と思います。
例えば、「お宅のお子さんを教えてみて、私はこう感じていて、こういうふうに指導してみたら○○でした」とか、「今度こういうことをやるから、今はこの課題を頑張らせてみようかと思いますが、どう思われますか?」と質問すると、いろいろ話してして下さいます。「おまかせします」という方ももちろんいますよ。でもそこであきらめないで、コミュニケーションをとってみてほしいと思います。
さいとう 講師時代には、「今日はこれとこれをしました」「この次はこういうふうにしていきます」「もうちょっと先にはこうしていきたいと思います」「ここのところだけすみません、お母さんお家で協力して下さい」という、レッスン終了時の話法の研修を何度もやりました。こうすると親と共同戦線が張れるわけです。共同戦線がうまく張れれば、子どもをうまくリードしていくことができるんですよね。
◆ピアノがその子にとって、
大切なものになるために。
―― 読者にメッセージをお願いします。
さいとう いや、メッセージなんてとんでもないですけれど(笑)……。ひとつ思うのは、先生方も今までピアノを続けていらしたのは、やっぱり夢を持っていらしたからだと思うんです。その夢をね、もっと生徒さんに語ってあげるといいと思うんですよ。「私は今まで音楽することに憧れてこうしてきたのよ」「ここまで続けてきたら、こんなにきれいな曲に出会ったのよ」「音楽ってこんなに素敵なのよ」とかね。ただ機械的に課題を与えるだけでは、子どもたちも何のためにピアノをやっているか分からなくなってしまうと思うんです。
それと、練習って本当に毎日のトレーニングの積み重ねですよね。私自身も今も先生に師事しています。一日でも一ミリでも下がっていくのはいやなので。そして、それを生徒にも話すんです。すると、「先生も練習するんですか」と聞かれる。そしたら「そりゃそうよ。やらなければ自分も落ちていくの。あなたも努力しないような人に教わりたくないでしょ」って言うと「ああそうか」って。それで心が入れ替わるんですよね(笑)。
池田 ある方が「習い事をきちんとさせるということは、努力を積み重ねていくことで、自分自身が成長することを体で覚えさせることができる。だから厳しく習わせます」と言われたことがあります。本当にそうだなと思います。
それから、生徒さん、あるいはその親御さん、本当にいろんな人がいるけれど、先生は絶対に切り捨てないであげてほしい。最終的には教育者が責任を取らなくてはいけないんですから。重いですけれど。
その子なりにでいいと思うんですよ。例えば、文化的に豊かな国の人々は、理屈じゃなく音楽の楽しみを知っている。誰の歌がいいとか、自分自身の楽しみの中に音楽が息づいている。日本でもそういうふうに、音楽が単なるおけいこごととか、自分のステイタスを上げるためのものではなく、自分にとっての必要なものになっていってほしいなと思いますね。また、そういうものになるようにアドバイスしてあげられる存在が先生かなと思います。
さいとう それから、先生たちも、教えるだけじゃなくて、生徒から何かを吸収しよう、と思ってみるのもよいのではないかと思います。どんな年齢の子どもからでも、学ぶところはありますから。
池田 父兄から教わるところもたくさんありますね。だから、若い先生なんかは自分が知らないところを虚勢を張る必要はなくて、「お母さん、そこは教えて下さい」って。キャリア的にも年齢的にも教わることは教わればいいし、「これは自分が教えるんです」っていうところは自信を持って教えればいい。無理をしないことかな、と思います。
( 完 )
(取材・文
LPO編集室)
◆プロフィール
池田陽子(いけだ・ようこ)
音楽教室のピアノ・電子オルガン・シンセサイザー・幼児教育、指導者育成等のクラスで、クラシックポピュラー音楽の指導者を務めるとともに、演奏者としても活動する。その後、講師の指導・教育に携わる。
さいとうみどり
広告代理店勤務を経て音楽教室講師となり、その後、同音楽教室の講師指導の職務に就く。この間、教育現場の視察を重ねて音楽教育のあり方を探求し、独自の幼児教育の指導法を確立、教材を作成する。
昨夏、共著「ピアノがうまくなる子、ならない子」(情報センター出版局 刊、1400円)を出版。また、現在インターネットによる音楽教育プロジェクト「ピアノを習おう.com」に参加。
◆「ピアノを習おう.com」ホームページ
http://www.naraou.com/ |