2002.9月 第42号


ポピュラー・ピアノを
プロフェッショナルに
教えるために!!
*ポピュラー・ピアノを上手に教えるための10のポイント*


宮本満栄


 ポピュラーピアノとのつき合いも、かれこれ30年(!)になりますが、ポピュラー音楽というのは日々新しいものが生まれてくるわけですから、長年教えていても常に「現在進行形」であるような気がします。最近では子どもから中高年まで、そのほとんどがポピュラー志向にある中で、ピアノレッスンも変わっていかざるを得ない状況となり、先生方も頭の痛い問題をたくさん抱えていらっしゃることと思います。

 そこで今回は、ポピュラーピアノを教えるにあたって指導者が何を身につけ、何を知っていればいいかということを簡単にお話しさせていただきたいと思います。中には「エッ? そんな事できない!」と思われるものもあるかもしれませんが、決して「これができないとダメ」ということではありません。あくまでも私の経験上、気づいたことをまとめただけですので、どうか気楽にお読みいただけたらと思います。

 なお、参考になりそうな書籍や教本も少しご紹介しておきます。


《ポピュラーピアノを上手に教えるための10のポイント》


1)ポピュラーのあらゆる分野の曲が特徴をきっちりつかんで上手に弾けること

  ポピュラーピアノの需要は、子どもよりも大人の生徒さんの方がまだまだ多いと思います。大人の生徒さんは先生がちゃんとピアノを弾けないと、その実力を見破ってすぐにやめてしまいます。また弾いてもらうのを楽しみにしてくる生徒さんもいますので、どんどん弾いてあげて下さい。ただし、どの曲を弾いてもクラシック弾きというのはいけません。それぞれのジャンルの音の出方の特徴をちゃんとつかんで弾き分けられることが大切です。

2)ポピュラーの各ジャンルと代表的なアーティストを知っておくこと

 これも大人の生徒さん、特に男性は知識が豊富な方が多いので、話題についていけるよう日頃から本を読んだり、CDを聴いたりして知識を広げておきましょう。特にバンドものになると苦手ではありませんか?

《この本がオススメ!》
「見開式クイックマスター ロック&ポップスの歴史」
(三宅はるお 著/ヤマハ 1400円)

3)リズムに精通していること

 ポピュラー音楽の大半はバンドやアンサンブル形式で出来上がってきた音楽で、リズムを抜きにしてはその本質はつかめません。日頃よくレッスンで使う曲は必ず原曲を聞いておくことと、楽譜を見て「この曲は8ビート、この曲はボサ・ノヴァ」などとちゃんとリズムの説明ができることが大切です。リズムのノリをマスターするには、CDを聴く際に神経を集中してドラムとベースだけを聴く、あるいは曲全体の抑揚を聴き取るようにするとノリがつかめてきます。

《この本がオススメ!》

「ポピュラー・リズムのすべて」
          (由比邦子 著/勁草書房 2400円)

「ポピュラー・ピアノ 8小節の練習曲集〈リズム編〉【改訂版】」 (宮本満栄 著/ドレミ 1000円)


4)理論がある程度わかっていること

 大人の生徒さんの中には理論的なことも知りたいと思っている人もいます。また、上級の生徒さんを教える場合は理論を説明しないと分からないことも出てくると思います。時にはジャズ理論の分野にまで入り込んでくるかもしれませんが、簡単なコード進行法と音階やハーモニーについての基礎的な部分だけでも勉強しておくといいと思います。(クラシックの理論ではちょっと足りません。)

《この本がオススメ!》

「ポピュラー音楽理論」
(北川 祐 編著/リットー 2427円)

「ポピュラー・ピアノ・スタディ1・2」
(稲森康利 著/中央アート (1)―3800円、(2)―5000円)


5)コードで伴奏づけや即興演奏ができること

 
 コードを知らないでポピュラーピアノを教えるのには限界があります。楽譜通りに弾けるように指導するだけ、になってしまうからです。ジャズほどではありませんが、ポピュラーも即興性のある音楽です。楽譜に書いてある曲でも必要に応じて即興的にメロディーの譜割りを変えたり、伴奏のパターンを変えたりすると、音楽がどんどん生きてきますし、中学生、高校生ぐらいの生徒さんは先生が即興でピアノを弾くことに対してかなり強烈な印象を持つと思います。また、連弾の指導でも先生が簡単な伴奏形から少しずつ楽譜に書いてある複雑な伴奏形へと変えていくことができれば無理のないレッスンができます。

《この本がオススメ!》

「コード進行の基礎知識〈課題と解答付〉」
(橋本晃一 編/ドレミ 1500円)

「ジャズ&ポップス セオリーシリーズ」
『ベーシック』 1340円
『コード進行(CD付)』 2195円
(ともに藤井英一 編著/ヤマハ)


6)市販されている楽譜のアレンジの善し 悪しを見極める目を持っておくこと 

 ポピュラー音楽は本来ピアノ用に作られたのではないものの方が多いので、曲集として出版する場合は必ずアレンジャー≠ニいう黒子の存在があります。出版社によってカラーが随分違いますので、同じ曲でもいろいろ楽譜を見比べて、出版社やアレンジャーの特徴を知ることが大切です。昔に比べれば今は「とんでもないアレンジ」は少なくなってきましたので、あまり心配することはありませんが……。

7)ドラム、ベースなどと一緒に演奏する機会を持つこと

 現在ではミュージックデータも種類が豊富になり、活用していらっしゃる先生方も多いことと思いますが、生身の人間が叩き出す「生のリズム」というものを是非知っておいていただきたいと思います。なぜなら、機械では絶対に感じないゆらぎ≠ェあるからです。そしてこれがリズムのノリにつながってくるのです。生徒さんにリズムの細かいニュアンスについて説明するには、生のリズムを知っておくことが大事です。そしてこれがポピュラー音楽の本来の姿ですし、何と言っても楽しい! のです。


8)ジャズも知っておくこと

 ジャズの弾き方やコードフォームなどが分かっていると、ポピュラーピアノの弾き方が一味も二味も変わってきます。深みが出てくるといいますか……。ポピュラーとジャズは別物と思われがちですが、共通する部分もたくさんありますし、ポピュラーの曲集の中にジャズの曲が混ざっていることもありますので、ジャズの曲も少しずつ聴いておくといいと思います。

《この本がオススメ!》

「クラシック・ピアノからジャズ・ピアノへ やさしいジャズ・ピアノ奏法」
(藤井英一 著/ヤマハ 1800円)
「スウィングするテクニックが身につく ジャズ・フレージング・ブック スキャットによる練習CD付」       
(なら春子 著/全音 2500円)

9)クラシックとの連携を常に考えておくこと

 私自身は、音楽をクラシック、ポピュラー、ジャズと分けて考えるのは間違いだと思っています。例えばキューバのハバネラ≠フリズムはヨーロッパに渡って「カルメン」の「ハバネラ」に使われましたし、ジャズの和声はドビュッシーやストラヴィンスキーなど近代の作曲家の和声をそのまま応用したもので、それらはいずれも複雑に絡み合っています。もちろんポピュラーピアノの奏法に関して言えば、独特のパターンがあることは事実ですが、常にクラシックとの連携を考え、技術的な面でのサポートができるようにしておくと、上達の度合いも違ってくると思います。


10)クラシックを教える時のような几帳面さを捨てること

 ポピュラーはエンタテインメントの音楽ですから、リラックスして楽しんで弾けるように指導することが大切です。また楽譜はアレンジしてあるものが大半ですので、メロディーの譜割りが多少違ってもリズムを大きく崩していなければ神経質に直す必要はありません。指使いも生徒さんに応じて変えてあげていいと思います。ただしスラーやスタッカート、休符などはリズムのノリに深く関わっていますので、できるだけ正確に。

 ざっと大雑把に書きましたので、ご理解いただけない部分もあるかと思いますが、もう一度言わせていただくならば、決してこれを全部やって下さい、というわけではありません。一番大事なのは先生がポピュラーピアノを好きになり、まずご自分が楽しむことです。それは必ず生徒さんにも伝わり、いい結果につながっていくのではないでしょうか?                ( 完 )

※この秋からは、好評講座「生徒一人一人のための楽譜選び」シリーズに大人向けの教材選びの講座がスタート! お近くで開講の際には、是非お出かけ下さいね。



★宮本満栄(みやもと・みちえ)プロフィール

北九州大学文学部国文学科卒。ヤマハ音楽教室にてポピュラーピアノ、ジャズピアノを指導するかたわら自己のトリオを結成し、ジャズピアニストとして地元を中心にコンサート活動を続ける。'92年にオリジナル組曲「ALASKA」を自主制作でリリース。現在はフリーのレスナーとして、初心者からプロまでの指導にあたる傍ら、公開講座「生徒一人一人のための楽譜選び」講師として、全国各地で講演中。



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