2002.7月 第40号


ピアノとあそぼう!

―― 音友「ピアノとあそぼう」レッスン活用法――

柴田礼子


  昨年秋に出版されて以来、ユニークな内容が好評の
それぞれの表現を見つける音楽教育 ピアノとあそぼう」
(柴田礼子 著/音楽之友社 刊)

 これは読者の方々にぜひともレッスンに取り入れていただきたく、著者の柴田礼子先生が主宰されている「音と動きの教室 シュピールハウス」(さいたま市)にお邪魔し、実際のレッスンを取材させていただきました!

  まず先生に「シュピールハウス」を作られたきっかけについてお聞きしました。

「私は、ザルツブルグのオルフ研究所にいた時に、さまざまな授業や先生方のアプローチから、“音と遊ぶ”ということを学びました。就学前の子どもたちのクラスで教育実習をしながら、私も小さな時にこういう風に音楽と出会えていたら、どんなだったのだろうと思ったものでした。
 シュピールハウスの
シュピール《Spiel》は、英語の《Play》と同じで、「演奏する」と「遊ぶ」の両方の意味があります。さまざまな環境の子どもや大人が一緒になって音楽と遊んでくれたら、きっと私もそこから楽しいことがたくさん見つかるだろうなと思ったのがきっかけでした」

  この日のレッスンは、成人から子どもまでの7名。それぞれ実に興味深く、楽しいレッスンが繰り広げられました。今回は、特に印象的だったレッスンをご紹介します。

*Nさん (成人・知的障害/レッスン歴10年)

 まずはピアノに触れる前のウォーミングアップとして、先生と向き合って(あるいは鏡に向かって)のリコーダーの即興演奏から。「リコーダーは、優しい音色であること、息の練習にもとてもいいことに加え、教会旋法をうまく使うと、とてもきれいな響きで即興できるんですよ」という説明の通り、とてもイイ感じ。
 そして、次はBGMに合わせて、二人で自由に体を動かします。BGMは、生徒さんのその日の気分に応じて毎回変わるそうですが、この日はNさんセレクトの「賑やか」バージョン。サンバのリズムに合わせ、慣れた様子でピョンピョン飛び跳ねてとっても楽しそう。そうして心身ともリラックスした後は、いよいよピアノへ。
 まずは『ピアノとあそぼう』に収録されている「まねっこしよう」。4拍ずつ、交互にお互いの動き、奏法をまねします。

「子どもは模倣がとても得意です。最初にいろいろな模倣をすることで、おもしろさと要領がわかってくると、既成の曲のメロディーやリズムの模倣にも役立ちます。また、この遊びでは必ず役割交換をします。最初は大変かも知れませんが、子どもたちがいつも受け身ではなく、積極的に自分のリズムや奏法などを考えるきっかけを作ってあげると、自分の音に対してもっと興味が持てるようになると思うのです」

 
形式とか和声とか難しいことは考えないで、楽しみながら相手の演奏を聴いて、記憶して、模倣して…… そこには、実にのびのびとした自由さがありました。
 その後「荒野のバラ(ランゲ作曲)」のレッスンへ。この日が4回目とのことで、とても丁寧に弾かれていましたが、自由に弾ける即興とは違い、リズム、テンポ、音程など、守るべきことがたくさんある既成の曲では、どうしても硬さが出てきてしまいます。そこで先生はすかさず「動物になろう」のワシのあそび≠用い、肩や背中をリラックス。また、不得意な右手のリズムをきちんと弾けるようにするために「まねっこしよう」で復習したりも。それらの遊びを通じ、レッスン終盤には音への探求心に溢れた、とてもいい表情を見せていたNさんでした。

*Hちゃん (5才・自閉症/レッスン歴2年)

 最近、通園などで少々お疲れ気味のHちゃん。また、生え変わりつつある歯がとっても気になるらしく、この日はお母さんの膝の上とレッスン室の鏡を行ったり来たりで、大好きな「ケロポンズ」のBGMにも、楽器の音にもあまり体が動きません。
 でも、先生はその日のHちゃんの心に響く音や音楽は何かを探すべく、次々にいろんな音を提示していきます。音がするお人形の中に入っている手芸用のチューチュー音、ステンレスボウルの金属音、カスタネットのカチカチ音……。そして、
「♪Hちゃんのカスタネットー、すてきなすてきなカスタネットー」なんていう、Hちゃんのための即興ソングも。
 この日はたまたま調子が出なかったHちゃんですが、そんな中でも好きな音、音楽に出会えたときの体の反応(途端にノリノリに!)が非常に印象的でした。

*Aちゃん(小2・レッスン歴6ヶ月)

 Aちゃんは障害を持っている生徒さんではありませんが、入門時、少し発語に不安があったとか。そこで、声を伴うレッスンが多くみられました。
 まず、「ピアノの弦であそぼう」をもとに、ピアノの弦に向かって先生としりとり。弦に向かって声を出すことで弦が声に反響し、その響きを楽しむことで、自然に大きな声が出されます。また、絵本をお互いに読み合いながら、二人でページごとの即興曲を作り上げていく「『ころころころ』とあそぼう」では、「かいだんみち、ころころころ〜」「でこぼこみち、ころころころ〜」など、たくさんの表情豊かな作品ができました。その様子を見ていると、「どこに問題があるの?」と拍子抜けするほどですが?

  「いえ、最初は言葉が出にくいことに加えて、本人も『失敗したらどうしよう』と思っていたらしく、なかなか声が出なかったんですよ。でも、最近は私が答えに詰まった時などには、『○○があるよ』と教えてくれるまでになりました。それは、前出の模倣の事でも触れた「役割交換」の効用や、音を作っていくのに大切なのは自分の思いやイメージであり、そこに“間違い”というものはないということを、さまざまな遊びを通じて感じてくれたのかも知れません。子どもたちは、自分の言ったことや、自分の思いをきちんと認めてくれる人がいたら、自分の気持ちを出すことを恐れなくなるし、その気持ちをいろいろな形で表現しようと工夫もしてくれるようになると思うのです。そして、それは必ず本人の自信につながります。ひとつひとつの小さな自信を積み上げていくと、それは大きな自信になっていくのです」

*Tさん(高2・自閉症/レッスン歴8年)

 やはり表現というのは十人十色。リズミカルなBGMに対し、Tさんの表現はのっしのっしと歩き回る感じ。模倣もあまりなく、動きも単調になりがちなので、先生は途中から足に鈴輪(オルフ楽器)をつけたり、彼女に近づいてみたり、離れてみたりと、何かしら試みを施されます。
 そして、ピアノでは「ブラッキーズ」「ホワイティーズ」を使っての即興。二人の即興は、非常にエネルギッシュな彼女に対し、先生はそれに寄り添う感じ。しかし、ただ寄り添うのではなく、単調になりがちな動きに伴奏で変化を持たせることで、新たな動きが生まれたりも。この日は途中で音を変えながら、3つの作品が誕生。特に最後に生まれた1曲には、キース・ジャレットの「ケルン・コンサート」を思わせるような、感動的なパッセージも。Tさんと先生のエネルギーが融合した、とっても貴い瞬間でした。

「Tちゃんは楽器がとっても好きで、もともと感覚もとてもいい生徒さんです。来た当初は、何もしてくれなくて、寝っころがって天井を見ていたことを今でもよく覚えています。その彼女が、今では発表会でもみんなの注目を浴びるほどの演奏をしたり、リコーダーやマリンバを弾くようにもなりました。そんな彼女とともに、私自身も成長することができたのではという気がしています。というのも、これまで彼女が表してきた動き、音、メロディーは、最初から彼女のもので、私が与えたものではありません。それにどう私が反応したらいいのか、どう展開したらおもしろいのか。戸惑いながらも、それをひたすら追い続けてきたような気がします。そして、気がついたら、いつの間にか一緒に何十分でも即興をすることができるようになっていたのです。……」

―― 今回の取材を通じて、LPOでは「表現する」ということにも、作品様式の表現、そして自分自身の魂の表現、この二つがあることを改めて強く感じました。そしてそこに、これからの音楽教育への大きなヒントが隠されているのでは? とも。
 
「ピアノとあそぼう」には、今回ご紹介したほかにも、楽しいあそびがいっぱい!秋にはなんと教材も発売されます。乞うご期待ですよ〜  

                    (取材・文 LPO編集室)


◆プロフィール

1960年埼玉生まれ。東邦音楽大学ピアノ科卒業後、オーストリア国立音楽芸術大学モーツァルテウム「カール・オルフ研究所」で「音楽ときの教育」を学ぶ。87年ザルツブルグ市民大学子どもクラスの講師を務める。現在、さいたま市で「音楽と動きの教室シュピールハウス」を主宰し、一人一人の表現を引き出す音楽教育を展開。また、障害児との音楽活動や指導者養成に取り組む。日本オルフ音楽教育研究会運営委員。国際オルフシュー
ルベルク奨励促進協会会員。著書に『ピアノとあそぼう』(音楽之友社)。今秋、音楽之友社より教材『ぴあのとあそぼう』を出版予定。


◆シュピールハウスホームページ
         
http://www.bubukun.net/



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