1999.7月 第4号


 
大人のピアノレッスン、長続きのコツ
   
          
渡辺明子


●不安にさせない

「もしもピアノが弾けたなら……」こんな願いは持ちながら「でも、もしピアノを習い始めて、ついてゆけなかったらショックだわ!」と大人は誰しも不安なものです。ですから、勇気をふりしぼって教室の門を叩いた大人の生徒さんたちが挫折感を味わわずにすむよう、レッスンを進めてゆきたいですね。
 長続きさせるポイントのひとつは、生徒さんの焦りや失望を上手に取り除いてあげることです。「私の指って、こんなに動かなかったっけ?」「こんな状態で、いずれは弾けるようになるのかしら?」― この状況では「弾く気にさせてあげる」ことで生徒さんの気持ちを立て直す必要があります。自信をなくした曲はいつまでも弾いていたくないので、ある程度好きな曲に移行しましょう。
(ただし、時には「練習で克服したい」人もいるので、それは先生が見極める。)

《生徒さんの胸の内》
「先生のレベルにはとても到達できないので、それならCDや自動演奏を聴いたりコンサートに行って楽しむ方がよいかな、続けていてもムダかな? と、ふと思うことがある。そんな気持ちが解消されるのは、好きな曲が弾けた時。『渚のアデリーヌ』がレパートリーになるのなら、練習し甲斐もある。」(四十代女性)
「これからプロになるわけでもないし、年齢的に先もないのだから、ポツポツ音を拾う程度でも好きな曲が再現できれば満足。」(五十代女性)
「レッスンで『スターダスト』をやるようになってから、自宅での練習回数が増えた。何時間弾いても飽きないし、生活も楽しくなった。あと二十年は続けてゆ
きたい。」(六十代男性)
「いつ死んでもよいと思っていたが、ショパンの『ノクターン』が弾けて生きる希望がわいてきた。九十歳まで頑張る。」(七十代女性)

《おススメ教材》
「大人のらくらくピアノ  」(ドレミ楽譜刊)…… 「これならピアノを楽しく続けてゆけそう」と、初心者から初級者が喜ぶ一冊。大人に人気の 曲が、やさしく弾き映えするアレンジになっている。前半 曲はカンタン連弾で、生徒さんの自信を高めるにも最適。全体は楽典基礎講座・楽譜集・演奏ガイドの3本立てで、きめ細かい構成が特徴。
「大人のためのピアノ曲集 全5巻」
(ドレミ楽譜刊)…… クラシック編・ポピュラー編・日本のうた編から成り、合計約 曲。初級者から中級者がレパートリーを増やすのに最適。また〈ポピュラー編2〉では、ポピュラーやジャズのスタンダードナンバーが小気味よいテンションを使ってアレンジされており、先生が気楽に弾いて楽しむのにも使える。

●指導上の心がけ

 生徒さんが足取り軽くレッスンに通い続けるためには、指導する上で次のことが大切だと思います。
@「この曲が弾けて満足」と喜ばれるためには、先生は多くの教材や曲集の中から自分の気に入ったものを見つけてストックを増やし、いつでも引き出せるようにしておく。
A長く続けていれば少しずつでも上達したいのが、実は本音。テクニックやリズム・表現方法などの指導は、好きな曲を弾いて気分がノッている中で行なうと無理なく身につきやすい。
B「やっぱりピアノって素敵だわ」と実感してもらうために、先生がピアノを弾いて「音で伝える」レッスンを心がける。ワンフレーズ弾いて聴かせるだけでも、音色の違いなどが分かるはず。

●私の「スマイル」法

 ところで、先生としては指導技術を身につける他に、レッスンに臨む心構えも必要になってきます。そこで私が考える「楽しく長続きさせるための5つのポイント」をご紹介いたしましょう。

S…Supporting(支えてあげる)
 レッスンで生徒さんの希望を実現して
 あげるために、支え役・補佐役になる。
M…Memory(覚えてあげる)
 「自分の事を覚えていてくれた」と感
 じられれば生徒さんは嬉しいので、前
 回の宿題内容や生徒さんのちょっとし
 た言葉などを忘れず、改めて再現する。
I…Information(知らせてあげる)
 「今までと違う自分」を求めてレッス
 ンに通う場合も多いので、音楽情報を
 はじめ、各人にあった情報を提供し、
 知識欲・向上心・好奇心を刺激する。
L…Leadership(導いてあげる)
 一段高いところから迫力で引っ張るの
 ではなく、先生の気持ちを生徒さんに
 気づかせ、生徒さんの共感を得ながら
 指導してゆく。
E…Energy(元気にしてあげる)
 上達をあせらず気長に構える。そして 
 先生は常に生き生きと。

 ところで、この5つの頭文字をつなげ

ると「SMILE」ですね。生徒さんにとっては、先生の「笑顔」にまさるものはありません

●「おじぎ」で気持ちを!

 最後に「おじぎの種類」を簡単にご紹介します。頭を下げる角度が深くなるほど、感謝(あるいはお詫び)の気持ちが強く表れます。
 レッスンが終わり生徒さんの帰り際、自分より若い人達には「じゃあまた来週ね」と同じ目線で別れます。でも目上の方には、心をこめて「敬礼のおじぎ」をしています。中年以上になってピアノレッスンに通い続けることは、確かに楽しいけれど大変なこと。ですからその努力に対し、せめてもの「敬いの気持ち」を表わしてゆきたいのです。

●プロフィール
 国立音楽大学楽理科卒。ピアノを井上初子、音楽学を小林緑、ポピュラー理論を橋本晃一の各氏に師事。卒業後、株式会社 西武百貨店から一般企業の社員研修講師を経て、現在は「大人のためのピアノ教室」を主宰。

●著書
 「大人のらくらくピアノ21」
 「大人のためのテクニック・マスター1〜3」(橋本晃一氏と共著)
 (いづれもドレミ楽譜出版社)



第5号へ

バックナンバー“index”へ

Topへ