2002.6月 第39号


「やさしい4期の名曲集」
レッスン活用法

楽譜・CDを手掛けられたピアニスト・
木幡律子先生にお聞きしました!

木幡律子


―― 「やさしい4期の名曲集@A」(全音楽譜出版社/中村菊子女史と共編) は、ピアノを始めて間もない生徒さんでも弾ける、やさしい四期の名曲が数多く収められていますね。以前に刊行された“四期別ピアノ名曲集”(同) も、古典期・ロマン期中心のレッスンを受けてきた私たちには衝撃的な曲集でしたが、今回の曲集も初めからいろんなスタイルの曲を学べるなんて、斬新かつ贅沢な曲集だと思います。

 ありがとうございます。“四期別ピアノ名曲集”も、お蔭様で楽譜・CDとも好評を頂いてきましたが、先生方から「小さな子どもがレッスンに持ち運びしやすいよう、四期が1冊にまとまった曲集を作ってほしい」との要望を頂いたこともあり、当時四期別≠ノ収めきれなかった曲や、改めていろんな資料から探した曲、それからこれまで日本で出版できなかったバルトークやプロコフィエフの作品などを含め、「やさしい4期の名曲集」の発刊となりました。 

―― 2000年の初版では「ようじからの4き」というタイトルでしたが?

 ええ、この曲集は技術的には初歩のテクニックで弾ける作品が多いですが、中には音の運びが洒落ているものなど、大人が弾いてもおもしろい曲もたくさん含まれています。また、子どもについてもやはり一人一人進度は違いますし、タイトルで限定しない方がいいということもあり、A巻が出る時に、改めて「やさしい4期の名曲集」というタイトルをつけました。

―― では、曲集の構成についておうかがいします。やはりまず@巻をやってからA巻に進んだ方がよいのでしょうか?

 一応、@巻は幼児から小学校低学年、A巻は中・高学年以上を目安に分けてはありますが、私自身は、ただ単に最初から順番にやるのではなくて、今その子に何が必要か、何を教えたいのかという課題で選んでいくようにしています。また発表会やコンクールなどでは少し挑戦できるレベルの曲を選んだりするので、@巻が終わったらA巻、というわけでもなく、両方の巻から、今その子に合った曲を選びます。

―― 中にはデロ=ジョイオなど、普段のレッスンではなかなか出会うことのできない作曲家も登場しますね。でも、こういうチャンスはとても貴重ですよね。例えばバロックが心に響かない子もいるでしょうし。 

 ええ、結局どの時代の作品がその子の興味を引くかというのは、実際その曲を弾かせてみないとわからないのでね。この前も、ピアノへの興味が薄れがちな生徒にチャイコフスキーの“人形のシリーズ”
(@巻に収録)を与えてみたんですが、どうやらそれが気に入ったらしく、またチャイコフスキーが弾きたいからピアノを続ける、と話してくれました。子どもにとってこのシリーズは感情移入しやすいようですね。

 一方これは私の友人の話なんですが、その友人は子どもの頃から非常に音楽性豊かで、小学一年生で既にドビュッシーが弾きたかったそうです。だけど、当時は子どもがドビュッシーなんて生意気だ、みたいなところがあって、明けても暮れてもソナチネしかやらせてもらえなかった。それでピアノへの興味を無くしてしまったそうです。今ならたくさんの現代曲で楽しめたでしょうね。子どもにとって「自分の好きな曲」との出会いは本当に大切だと思います。

 特に和声的感覚が優れた子や、指が弱くても感性豊かな子に、ソナチネの16分音符の粒が揃ったの揃わないの、左手の伴奏が転んでいるだの、もっとリズム練習をしなさいだの、そういうレッスンでは、その子の良いところを伸ばしてあげられません。また男の子は元気が有り余って、座っていることすら大変なわけですから、体全体を使える奔放な曲を弾かせてあげないと。

―― しかしそうすると、実際にはどのように教えていけばよいのでしょう? 特に現代曲を教えるとなると、私たち自身がそういうレッスンを受けていないので……。

 例えばカバレフスキーの「ボールあそび」
(@巻に収録)という曲があります。この曲は連打音の練習にもなるんですが、現代のスタイルで書かれていますから、やはり柔らかく弾く曲ではなくて、連打音432をタタタッとスピード感を持って回転させるリズム感が必要です。


第@巻に収録。いろんなボールが元気よく
飛びはねているような、とてもリズミカルな一曲。
その様子が生き生きと表現できますように……!


 連打音の練習はツェルニーでも出てきますが、「ボールあそび」はさらに一拍目にアクセントがついているので、指でアクセントをつけるほか、腕をポンと肘から落として弾きます。ちょっと乱暴なようですが、この肘からアームの使い方を教えるために、理屈じゃなく実際に高いところから子どもの手を落としてやる。その大きな運動の中で432が回転します。ボールを地面にたたきつけて強くバウンドさせる要領なので、子どもにもイメージしやすいと思います。これは脱力にもつながりますね。こういうのをやってこなかった子どもを見ていると、鍵盤の辺りだけでピアノを弾いていて、表現力が乏しいですね。また、A巻には「ドラマー」という4つの連打音が入っている曲があります。これも「ボールあそび」のテクニックを生かしながら、小太鼓のバチをイメージして楽しく弾けます。
 
とかくテクニックというのは一人歩きしがちですが、結局は音楽を表現するための手段なので、この曲集に収録されているもののように、曲のイメージを作りやすいタイトルがついていることはとても重要です。子どもたちの知的欲求を満たしながら自
然にテクニックも身につける、これが理想だと思います。

―― 昨年9月には待望のCD「やさしい4期の名曲集@A」(ビクターエンタテインメント)もリリースされました。CDに関しては、LPOにも「いつ発売されるんですか?」とずいぶん問合せが寄せられたんですよ。様々なスタイル、表現やテクニックを実際に聴いて確かめられることは、生徒さんだけでなく先生方にとっても有益ですよね。

 CDに関してはこんなエピソードがあります。最近私のところにきた生徒に、カバレフスキーの5拍子の曲「ひつじのさんぽ」(四期別ピアノ名曲集「近・現代名曲集」に収録)を与えたところ、やはり最初はなかなか5拍子のリズムが弾きこなせなかったんですね。そこで、お母様が楽譜対応のCD(「新ピアノ名曲全集F」)を買われて毎日何回も聞かせたらしいんです。すると、次の週には見違えるように弾いてきたんですね。もう弾き出した瞬間に「あ、聴いたな」ってわかるくらい(笑)。やはり物事は真似から始まるので、そういうリズムのニュアンスはまず耳で聴いて自然に体に染み込んでいくのが大事ではないかと思います。現代曲の響きにしても、幼い頃から違和感を覚える前に、耳をひらいておきたいですね。


楽譜完全対応のCD。
鑑賞用としてもオススメです!


 ですから、単にレッスンしている曲だけを聴くのではなくて、普段の生活の中で自然にCDを流しておいて、その中で子どもの心に響く曲ってあると思うんですね。この曲がおもしろい、やりたい、そういう思いを大事にしてあげる。まず興味を持たせることが大事ですから、そのための参考という意味で使って頂けたらと思います。

―― 最後にピアノの先生へのメッセージをお願いします。

「やさしい4期の名曲集」に関しては、まず先生と生徒さんの間で曲のイメージ作りを楽しんで頂きたいと思います。この曲はまだちょっとテクニック的に無理だとか、手が届かないからだめとか思わないで、やっぱりその子の興味を引いた時がその子にとって弾き時だと思うんですね。だから、オクターブを省いても構わないし、強弱を変えてもテンポを落としてもいいので、とにかく「弾きたい」という気持ちを大事にして、様々なタイプの音楽に触れてほしい。

 それから、今先生方が悩まれているのは、音楽的にいいものを持っていても、優秀な子ほど、ある時期から勉強の方へ進んでしまうことですよね。そのような生徒さんには、ハノンもやり、ツェルニーもバッハも、その他の曲も、みたいなレッスンはとても無理です。「私も小さい頃、チェルニー30番、ソナチネくらいまでは一応ピアノやってたんですけどね……」という言葉を聞くほど、私たちにとって悲しいことはありません。だからこそ、やはり総合的にバランスの取れた、いろんな名曲を通して感じたこと、想像したことを、生きた形で表現する喜びを味わう機会を与えてあげたいと思います。     
                       
 (取材・文 LPO編集室)



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