2002.5月 第38号
“こども”と、どう関わる?
―― 本の中のエピソードから学ぶ ――
LPO編集室 編
「子ども」という存在とどう関わるか。
ピアノの先生にとっては永遠のテーマですね。
10人の生徒がいれば、10通りの感性があって、そのそれぞれにどう関わっていけばいいのか。
どうしたら、一人一人に音楽の楽しさを伝えられるのか。
今回は、そんな「子ども」と関わる上でのヒントとなる、おすすめ書籍を紹介します。
☆現在活躍中のピアニストたちは、
どんな子どもだった?
◆「 ピアノへ」
10人のピアニストたちが語る
20世紀のピアノの名盤
そして私がピアニストになるまで
(谷川賢作 責任編集/ブロンズ新社)

ピアニスト、まさに十人十色。
それぞれの魅力が詰まった一冊。
表紙もステキです(^-^)
現在活躍中のピアニストたちは、こんなピアノレッスンを受けていた!
本書は、山下洋輔、矢野顕子、リクオ、国府弘子、舘野泉、小山実稚恵、加羽沢美濃、谷川俊作さんら10人のリトル・ピアニスト℃梠繧知ることのできる一冊。今をときめくピアニストの秘められた過去(!)が、本人によって明かされています。
楽譜を見てきちんと弾くことは拒む一方、ピアノを“いたずら弾き”することは大好きだった山下少年をはじめ、本書には実にさまざまな子どもたちが登場します。そして、その全員が順調にピアノレッスンを続けてきたわけではなく、途中で別の楽器に浮気してみたり、「8時だよ! 全員集合」に心奪われてみたり……。それらを読むと、なーんだ、ピアニストの皆さんも、かつては普通の子どもだったのね、と親しみを覚えたり。
ぜひ生徒一人ひとりの顔を思い浮かべながら読んでいただきたい一冊です。
☆子どもの目線に合わせると、
新しい景色が見えてくる。
◆「子どもの目の高さで歌おう」
(北村智恵 著/芸術現代社)

「子どもの感性」って、
ほんとにおもしろい!
我々大人も失わずにいたい
ものですね。
好評既刊「シルバーエイジの今からピアニスト」や公開講座でおなじみの北村智恵先生が、10年間のレッスン風景を綴られた一冊。今から約20年前の1983年に出された書ではありますが、今もまったく色褪せない内容です。
何より印象的なのは、先生の子どもに対する「視点」。まさに「子どもの目の高さ」で生徒の関心、感動を探り、心を通わせていかれる姿勢には畏敬の念を感じずにはいられません。一見、突拍子もない行動をとっているかのような子どもでも、その子と同じ目線に立ってみることで見えてくるものがあること、同じ目線に立つからこそ、時には駆け引きのない、毅然とした態度を取ることも必要なことなど、実にさまざまな気づきがあります。
続巻に「風の声を聴く子どもたち 教えない音楽教育」(芸術現代社)、また生徒に宛てた手紙を綴った「心を紡ぐ ディア・リトルピアニスト」(ショパン)があります。

生徒さんはきっと、一生この手紙を
忘れないでしょう。なぜなら、
この手紙は、先生が自分のことを
真剣に考えてくれた記録だから。
☆その子にとっての「道」を開くとは?
一方こちらは、ある一人の生徒とのレッスンの軌跡を追った書。
◆「 音が光になった
盲目の少年とのピアノレッスンの軌跡」
(江口寿子 著/全音楽譜出版社)

「閉ざした心」をもつ生徒に、
教師は何ができるのか……。
簡単ではないけれど、
その答えがここにあります。
本書は、江口先生と全盲の少年「マコトくん」との、15年にわたるレッスンの軌跡を綴ったもの。
出会った当初は、言葉を交わすことさえままならなかった二人。そして、お互い未知の領域が多いからこそ、試行錯誤の連続だったレッスンの日々。しかし、先生の全身全霊をかけた指導により、マコトくんは次第に心を開くようになり、あらゆる課題を克服していきます。そして、やがては自作の曲を通して自らの心の中を表現するまでに。そして、その演奏を聴いた先生は――。
たとえどんなに障害が重くとも、どんな事情があっても、その子が音楽を求めている限り、できる限りの援助、あらゆる試みを惜しまない。その子の成長を阻むものは、何としても取り除く。そんな江口先生の教育者としての情熱が胸を打ちます。
また、類書として、自閉症の少年との14年にわたるピアノレッスンの記録「心ひらくピアノ
自閉症児と音楽療法士との14年」(土野研治 著/春秋社)も、読み応えある一冊としておすすめです。
☆「才能を伸ばす」ということ。
◆「天才を育てる
名ヴァイオリン教師ドロシー・ディレイの素顔」
(バーバラ・L・サンド 著/音楽之友社)

五嶋みどりとのレッスン風景や、
パーティーでのパールマンの
変装など、貴重な写真も収録。
五嶋みどり、イツァーク・パールマン、サラ・チャンをはじめ、多数の名ヴァイオリニストを育てた名教師ドロシー・ディレイ。彼らは彼女によってその才能を見出され、技術だけではなく、アーティストとして最も必要な「音楽的魅力」をも授けられたのです。本書ではその指導法を解き明かすべく、家族や同僚、門下生、そして彼女自身へのインタビューと綿密な取材により、その知られざる素顔に迫っています。
本書を読む前は、その偉業から推察するに、さぞかし厳しいレッスンなんだろうな…… と思っていましたが、次第に浮かび上がってきたのは、慈しみの心を持つ“母”であり、“名医”ですらある姿。生徒に宿る才能および成功への方法論を正確に見抜く一方、決してその答えを容易に与えたりせず、生徒とともに考え、忍耐強く見守りながら、あるべき方向に導いていく……本書では、そんな彼女の教師としての才能と、溢れんばかりの人間的魅力が存分に描かれています。
☆今後ますます求められる
“癒し”的アプローチ。
◆「療法的音楽活動のすすめ
明日の教育と福祉のために」
(丸山忠璋 著/春秋社)

著者の丸山先生がこれまでに
実践されてきた実例集なので、
すぐ使えるアイデアがいっぱい!
いじめ、虐待、不登校、引きこもり、無感動…… 深刻化する子どもの「心の問題」に対応するためにも、今後は「ピアノレッスン」という枠を超えた、心を癒す〈遊び〉としての音楽を提供することも求められてくるのではないでしょうか。
本書は、学校教育の専門家である著者が十年来取り組んでいる〈療法的音楽活動〉を紹介。〈療法的音楽活動〉とは、音楽療法の考えや方法を取りいれた教育的活動で、学校音楽教育と音楽療法の中間に位置する、教育と福祉分野を主体とした音楽活動。本書では、その活動例(歌、トーンチャイムや太鼓などの楽器を使った活動、リラックスしての音楽鑑賞、音楽ゲームなど)を丁寧な解説とともに数多く紹介。普段のピアノレッスンへの“導入”としても使えます。殺伐とした今だからこそ、子どもたちに「心からの音楽」を……!
(取材・文 LPO編集室) |