2000.9月 第18号


2002年 学校は、音楽科は
どう変わる?
− 2002年「学習指導要領」改訂に向けて −

加藤富美子

  2002年から、完全学校週5日制のもと、学習指導要領が改訂されます。
  現在、各方面から注目を集めている「新・学習指導要領」。「ピアノ指導」という仕事には直接関係ないとは言え、生徒さんを取り巻く状況は大きく変わるわけで、その動向は気になるところです。今までの指導要領とはどこが違うの? 「和楽器」って何を使うの? ・・・・・・ 今回はそんな疑問にお答えすべく、現在東京学芸大学で教鞭を執られ、教育関係の著書も多く出版されている加藤富美子先生にお話しをうかがいました。

Q.2002年から実施される「新学習指導要領」では、音楽科の授業は具体的にどのように変わるのですか?

A.まず、小学校も中学校も授業時間数が少しずつ減ります。小学校の場合は、これまでは週2時間だったのが、年間を通じて10時間から20時間少なくなります。中学校でも第1学年だけはこれまで週2時間あったのですが、これもおよそ週1時間程度に減ります。
  もっとも大きな変更は、共通教材の指定についてです。これまでは、小・中とも、「歌唱共通教材と「鑑賞共通教材」が各学年ごとに指定されていたのですが、小学校の「歌唱共通教材」だけが残り、ほかの指定がなくなりました。
  ただ、これらのことは、「削減」というよりは「組み替え」ですね。学校の個性を生かし、地域のそれぞれのよさを生かしていく、 というのが今回の改訂のひとつの大きな方向ですから、今までとは少し考え方を変えて、従来いろいろ細分化されていたものを、領域を超えた形で再構成していく。よって指導者は、より柔軟に、その地域、目の前の子どもたちに合った授業を作っていくことが求められます。

Q.それでは、指導者は今まで以上にアイディア、創造性がないと対応していけないんですね。

A.そうですね。「各学校の創意工夫を生かした特色ある教育、特色ある学校づくり」というのが今回の大きな改革4点のうちの1つなので、そのことが音楽にも大きく影響することになります。

Q.では、「和楽器の導入」ということについては?

A.今回中学校の学習指導要領の「器楽」の項で、「和楽器については、3学年を通じて1種類以上の楽器を用いること」ということが指定されました。今までは西洋音楽というか「西洋の様式に基づいた音楽」が中心でしたよね。そこに日本の音楽がほんの少し入っていたわけですが、今回この1文が入ったことで、「自分の国の音楽を」という動きがはっきりと具体化しました。
  とは言え、今現場では、実際どこまでやればいいのかいろいろ悩んでいるようですが、傾向としては、筝(おこと)、和太鼓が中心となっていくようです。

Q.次に「総合的な学習」についておうかがいします。中学校でも「総合的な学習」の時間はあるのですか?

A.はい、小・中・高とそれぞれにあります。「総合的な学習」の時間では、これまでのように各教科別に細分化された学習ではなく、国際理解だとか環境問題、人権問題、あるいは地域学習など、これまでの教科別学習では対応しきれなかったテーマについて学習していくというものです。そして、そのテーマ、方法は、それぞれの学校ごとに独自のものが展開されます。
 「総合的な学習」について、音楽を担当する立場から言わせていただきますと、そもそも音楽とは、身体の動き、演劇的な要素、言葉、美術・・・・・・ さまざまなものと一体となって存在しているものなのに、これまでの音楽の授業では、その一部分しか教えることができませんでした。例えばオペレッタ、ミュージカルといった、総合芸術があるんですから、これからは「総合的な学習」の時間でそういう総合的な表現活動が大いにできるようにと、今現場では一生懸命アピールしていますし、実践も行なっています。
  また、「総合的な学習」は、そういった表現活動以外にも、音楽の社会的な役割に目を向けるとてもいいチャンスだとも思います。例えば、「国際理解」について考えるとき、音楽はきっとものすごく大きなファクターになるはずですから。
 また、今回の改革のひとつに「家庭や地域と連携した学習活動」という大きなテーマがあり、それに伴い、それぞれの学校では様々な試みが行なわれています。
  例えば、現在それぞれの地域にはいろんな分野のスペシャリストがいらっしゃいますが、今までそういう方々に学校で活躍していただく機会というのは、教員免許の問題もあり、なかなかありませんでした。しかしこれからは、そういう方々の力をどんどんお借りしましょうという動きになってきていて、人材のリストを作ったり、ホームページ上で募集している学校もあるそうです。多くはボランティアでお願いしているようですが、「特別非常勤講師」として地域の方を有償でお招きしている例もあるようです。

Q.それは画期的ですね。そういう「地域住民の学校参画」を考えるとき、ピアノの先生には、どんな可能性があるでしょうか?

A.私は、ひとつの楽器がとても上手に演奏できるということは、その子にとってとても大切なことだと考えているんです。これまでの音楽の授業では、いろんなことをできるように、というのが大きな目的で、「この楽器だけは完璧にマスターしたい」というようなことは授業レベルではとても対応できませんでした、でも、そういうことが何か一つでも実現できれば、それはもう生涯にわたってその子の財産となっていきますよね。
  ここまで「学校」という枠組みが変わってきている今、私は「学校」という場でそういった「一人一人に合った取り組み」ができないかと考えています。
  諸外国、例えばドイツの場合を見てみると、ドイツの学校では、授業は午前中で終わってしまいます。また、音楽の授業では歌を歌うとかではなく、音楽史や鑑賞を中心とした、わりと理論的なことをやっているらしいです。もちろん学校によっても違いますが。それでは子どもたちはどこで実際の音楽を身につけるかというと、ドイツでは各市町村が小・中学校とは別に公立の音楽学校を運営してまして、子どもたちはみんな、授業が終わってからそこに集まり、ジャズ、クラシック・・・・・・ その中からそれぞれ好きなように楽器を選択し、学ぶそうです。いずれ日本も、そういうふうに公共機関で、子どもたちが自分の学びたいこと自由に学べるようになっていけばいいなと思います。その時には、地域には優れた指導者の方が多くいらっしゃるわけですから、そういう方たちが、オフィシャルな形で関わって頂く、そのくらい変わっていってほしいですね。音楽をやりたがっている子はいっぱいいますから。
  また、学校の授業の中での参画を考えると、先ほどお話しした「人材リスト」の中には、本当にいろんな方がいらっしゃいます。その方たちの授業を子どもたちが定期的に受けるというのは現状では難しいかもしれませんが、音楽会や運動会などの行事、あるいは「総合的な学習」の時間など、長い時間をかけて、ある一つのテーマに多方面から取り組む時などには、いろんなジャンルの地域の専門家の方々に活躍して頂くことができるのではと思います。

Q.そうですか! 本当に学校は開かれてきているんですね。

A.ええ、開いていかなくちゃいけないと思っています。今まで学校で学んできたことというのは、ある意味ではあまりに特別なことで、実際に世の中に出た時にすぐ役立つことはとても少ない。それを、学習の段階から実社会と関わり、子どもたちも学校の外に出て行くし、大人たちも学校に集って、活動している姿を子どもたちに見せるべきなんです。
  今、大学の音楽教育専攻の学生が卒論のために、そういう意味ですごく進んでいる千葉のある学校を調べています。その学校は、生徒が減ってしまったことで「空き教室」ができてしまったそうです。そこでその空き教室を地域サークルの方たちに開放し、その方たちが学校で活動しているそうです。その存在は、子どもたちにも大きな影響を与えているようです。学校がそういう場を提供するという試みは今までは決してなかったことで、すごく面白いですよね。
  この(東京学芸)大学でも、地域の人に開かれた大学になるよう努めていて、最近正門のところに「どうぞご自由にお入り下さい」という立て看板をつけたんです。また、地域の方も参加できるような公開講座もたくさん開いています。

Q.こんなに広くて静かで、緑もたくさんあるステキなところに、学生じゃなくても入れるなんて、地域の人にとってはとても嬉しいことでしょうね。LPOも、また春頃に改めてお邪魔したいです(笑)。

A.ええ、うちの大学の桜はどこよりステキなんですよ!(笑)
また是非いらして下さいね。


●プロフィール

国立音楽大学教育音楽科卒業、東京芸術大学大学院修了、同博士課程単位取得退学。
京都教育大学、上越教育大学を経て、現在東京学芸大学教授。
民俗音楽の学習過程、日本や世界の伝統音楽の教材化、総合的な学習などを中心に研究を進めている。

●主な著書

「横断的・総合的学習にチャレンジ」
「授業のための日本の音楽・世界の音楽」(音楽之友社)
ほか。
         



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