2000.8月 第17号


介護の現場で
「ラララ12か月」

“ぴあのくらぶ”
飯田和子
谷口啓子
中森智佳子

  「介護保険制度」が導入され、早4ヶ月。まだ試行錯誤の段階とはいえ、来たる高齢化社会に向け、国を挙げて大きく一歩を踏み出したことに変わりありません。
  そんな中で「ラララ12か月」の著者でいらっしゃる“ぴあのくらぶ”の飯田和子先生、谷口啓子先生、中森智佳子先生が、東京・下谷(台東区)にある老人医療施設「飯田医院」にて、月2回「音楽レクリエーション」を行なっていらっしゃると聞き、早速お話しをうかがいました。


―― 活動のきっかけは?

●飯田 きっかけは『ラララ12か月』です。私たちはあの本を導
  入期の子ども向けに作りましたが、いざ出版してみると、歌
  と一緒に収録した指あそびやリズム運動がお年寄りのリハビ
  リにとてもいい、という声が各方面から聞こえてきた。そこで、
 自分たちでも実際に活動して確かめてみたいと思ったんで
  す。

◆谷口 またその頃、私の義母が事故で寝たきりとなって、リハ
  ビリが必要になったんです。それである日、飯田医院の訪問
  看護婦さんがいらした時、ちょうど『ラララ12か月』のミュージ
  ックデータをかけて、義母と手あそびをやっていたら、興味を
  示してくれたんです。それで「こんなこともやってるのよ」って
  いろいろな曲を紹介したら「病院にもデイケアで集まっている
  人がたくさんいるから、そこでもやってみないか」という話にな
  った。それで、昨年12月から、デイケアのレクリエーションの
  時間をお借りできることになったんです。

―― 「音楽レクリエーション」では、具体的にどのようなこと
    を? 

●飯田 形態は毎回1時間の15〜20人でのグループレクリエ
  ーションです。開始にあたっては、こちらの都合のいいときだ
  けやらせて下さい、というのではなく、きちんと年間計画を立
  て、月2回、病院のデイケアの体制に組み入れてもらうことに
  しました。また、事前にデイケアの現場を見せてもらったり、
  スタッフの方とミーティングをさせて頂き、普段はどういうメン
  バーでどういうレクリエーションをやっているのか、個々のお
  年寄りはどういうハンディをお持ちで、注意すべき点は何か、
  などを打ち合わせました。
  そして、私たちのベースは『ラララ12か月』ですから、季節感
  を大事にした歌や合奏を中心にしながら、以前からこちらの
  デイケアでやっていらした一対一でも対話、リハビリ体操など
  も取り入れることにしたんです。 
  また、私たちは3人いるものですから、歌とお話は私、指あそ
  びや機能訓練を含むリハビリ体操を中森先生、そして、谷口
  先生がリズムと合奏、というふうに、おおよその役割分担をつ
  くりました。
  こうして始動していったわけですが、毎月の具体的なプログラ   ムに関しては、その都度FAXなどでやりとりしています。とに
  かく3人ともヤル気十分なので、FAXでは「次はあれやりた
  い」「これやりたい」と行き交います(笑)。それを調整した上
  で、楽器は何を用意するのか、小道具は、と進めていきま
  す。また楽器に関しては、お年寄りが使いやすいように、ハン
  ディのある人向けに開発された楽器を調べたり、手持ちのも
  のに少し工夫したりもしています。

―― プログラムを組む上で、また実際の現場での注意点は?

■中森 明治・大正・昭和生まれの方々が一緒に集まりますの  で、例えば、なじみのある歌もそれぞれ違い、ただ単に「お年
  寄り」と一括りにはできず、「年代の共通性」ということに関し
 ては気を遣います。
  また、お年寄りの身体機能に関して。例えば、お年寄りは首
  をぐるっと後ろに回してはいけないんですって。だから全回転
 じゃなくて半回転、というようにお年寄りに無理のない運動を
  心がける。
 あと、「地域性」を大事にする。こちら(飯田医院)は本当に東
  京の下町ですから、歌もこの地ならではの『湯島の白梅』など
  は、すごく喜ばれる。「この歌詞にある地名はこの辺を言うん
  だよ」なんて教えて下さるんです。でも、これを別の場所でや
 ってもそんなには受けないでしょうね。もちろん歌はご存知で
  しょうけれど、曲に対する思い入れは全然違う。そういう会話
  が引き出せて、みんなで盛り上がれるような歌選びが大切。

◆谷口 あと、緩急のメリハリを付けることも大事。特に今みた
  いな暑い日には、激しいことをやったあとは静かなものを、と
  か。

●飯田 実は、私たちも最初は頑張りすぎちゃってたんですよ
  (笑)。子どもに接する時みたいに、次々にやらないと飽きら
  れちゃうんじゃないか、っていう気持ちがあって。でも、お年寄
  りは、逆にゆったりとした「間」が大事だっていうことが、3回
  目くらいにやっとわかった(笑)。
 また、目線の角度とか、椅子の並べ方にも気を使いますね。
  お年寄りはちょっとしたことにも敏感に反応されますから。

■中森 失敗もいろいろありましたが、こんなエピソードもある
  んですよ。『浜千鳥』をみんなで歌った時。一人の方が、学校
  のクラスに親を亡くしたお友達がいたんですって。この歌は
  「親を亡くした浜千鳥」なのね。それで、この歌をクラス全員で
  泣きながら歌ったことを話してくれたんです。そうしたら、それ
  を聞いていた周りの人たちもしんみりして「いい歌だねぇ…
  …」ってもらい泣きしちゃったんです。

◆谷口 いくつになっても親を思う気持ちは同じなんですね。親
  が亡くなっていても「お父さんお母さんに会いたい」と思ってい
  る。だから『親をさがして……』というフレーズは心に迫るもの
  があるんだと思います。

■中森 また「お正月の遊び」をテーマに一人一人に「お正月に
  はどんなことをして遊びましたか?」と質問していった時のこ
  と。双六、凧上げ、ベーゴマ…… いろんな遊びが出てきた。
  すると、あるおじいちゃんが「なつかしいなぁ〜」って泣いちゃ
  ったり。

◆谷口 あと、先日ヘルパーの方が「ミュージックベルを貸して
  ほしい」っておっしゃったんです。七夕の行事に自分たちで練
  習してお年寄りに聞かせたい、って。それまでは全然音楽に
  興味なかったのにね。これはうれしかった。

●飯田 音楽レクリエーションの時間には、ヘルパーの方も毎
  回お年寄りについていて下さるんですが、始めた当初は「街
  のピアノの先生がどんなことをするのかしら」っていぶかしが
  られていた部分もあったと思うんです。それは当然のことです
  し。でも、開始から半年が過ぎて、私たちがどういう気持ちで
  この活動をしているのか、ということが少なからず伝わってき
  ていると思うんです。

―― 今後の展望は?

◆谷口 今回、まずは1年間ということでやっていますが、以後
  はそれぞれの地元で、仲間とともに展開してもよいのではな
  いかと思っています。

■中森 こういう活動は、別に流派があるわけではないし「この
  本の通りでないと」ということはないのだから、自分の体験・
  経験をもとに、自分らしいものができれば一番いいのでは。
  歌が上手な人は歌を歌えばいいしお話が上手な人は、それ
  をメインにすればいい。一口にデイケアと言っても、いろんな
 ところがありますし。
  私自身、「音楽のもたらす力」に惹かれ、7年前から少しずつ
  関連分野の勉強をしていたんです。また今年、介護現場を音
  楽的見地からだけではなく、実際の現場からも見てみたいと
  思い、ホームヘルパー2級の資格を取り、老人保健施設でも
  活動しています。そういう場にも身を置くようになって、介護現
  場での「音楽」の需要を改めて感じています。

●飯田 でも、一人で全くゼロからのスタート、というのでは不安
  ですよね。だから、私たちの今回の活動の軌跡を何らかの形
  で示すことができれば、とは思っています。

◆谷口 ただ、実際は楽器の手配や交通費の問題など、仕事
  としてはとても成り立たないのが現状です。あくまでボランティ
  アとして、それでも自分の音楽を地域に還元したいという情
  熱が持てるかどうかだと思います。

■中森 自分で勉強することも大切ですね。「無償だからなんで
  もいい」ということでは決してないから。

●飯田 現場に受け入れてもらうには、自分のやっていること
  に客観性を持ち、一人よがりにならないことが大切です。

■中森 また、活動の場を探している人へ。常にアンテナを張
  っておくことが大事。アンテナを張っておけば、そういう情報
  は新聞とかどこかしらに必ず出ているはずですから。

★三人 求めよ、さらば与えられん!



●プロフィール

飯田和子(いいだ・かずこ)
東京学芸大学音楽科作曲専攻卒、小学校教諭、東邦音大付属校講師を経てペースメソッド実習者としてグループレッスン法セミナーを各地で開催。

谷口啓子(たにぐち・けいこ)
自由学園初等部より一貫教育を受け卒業。ピアノを白石百合子、ジョルジュ・ナードル、下坂道子、下村牧生氏に師事。樹原涼子氏主宰の勉強会講師として各地を廻る。

中森智佳子(なかもり・ちかこ)
国立音楽大学器楽学科ピアノ科卒業。ヤマハPEN全国本部
<オリジナル・ソフト・コンテスト>’96にて組曲「ボクのおもちゃ箱」が優秀賞受賞。同コンテスト’99審査員。

“ぴあのくらぶ”の活動
3人は自宅教室でそれぞれ異なったメソッドを用いて幼児から大人までのピアノ指導にあたっている。’97発足の「ぴあのくらぶ」(音楽之友社所属)のメンバーとして、曲集作りを手がけ、企画・編集・編曲の全てに関わる。
心と心をつなぐ音楽として、わらべ唄や童謡をとり上げ、忘れられていた指揮の情感を、ピアノ連弾曲集として甦らせた。その活動は、新聞やNHK TVで紹介され、注目を集める。活動のキーワードは「コミュニケーション」。


・・・・・・ いかがでしたか?
9/6発売ムジカノーヴァ別冊「チャレンジ! 音楽療法士」に、飯田先生によるこの活動のレポートが掲載されます。要チェック!
         



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