2000.7月 第16号


五感を呼び覚ます
「Tanno Music」の魅力


折山もと子

●どんな人をも導きいれる音楽

 私が現在行っている「Tanno Music」による合奏活動は、今まだ一般に普及している段階ではありませんが、これからの音楽のあり方を示唆しているものといえるでしょう。
 この「Tanno Music」とは、どんな人からも自由な表現を引き出すために、従来の西洋的な旋法、和声だけにとらわれることなく、実にさまざまな音楽要素を含んでいる、オリジナル・メソッドです。
 そしてその音楽は、例えば、和声的制約の簡素化(Harmony Simplification)、旋律の簡素化(Melody Simplification)、反復の多用(Ostinate)(以上「Tanno Music」の音楽タイプの一つ、
“Tonality Type”より一部抜粋)などをはじめとするさまざまな手法、工夫のもとに緻密に構成されています。
 そして、その合奏技法は、第1に、楽器初心者を含むどのような人でも「会ったその瞬間」に豊かな音楽空間に導きいれることが可能なこと、第2に、合奏に毎週参加しているうちに、楽しみながら楽器の演奏技術や多様な表現力を増していけるような音楽的配慮が為されている
こと、そして第3に、演奏者に興味を持たせる十分な美しさやインパクトがあることが最大の特徴です。
 「聴く」だけでも心奪われる音楽、しかも、その音楽の演奏に「誰でも参加」できる音楽なんて、今までにあったでしょうか?

●「Tanno Music」の魅力

 私は現在、この合奏技法を用いて子どもから若者、そして高齢者に至るまで、実際に数箇所で合奏(ピアノレッスンを含む)を指導していますが、初心者が奏でているとは思えない音楽の美しさに、聴衆のみならず、演奏者自身が感動でびっくりすることがあります。
 超人的なテクニックをもてはやすのではなく、真摯に音楽的、美的であることを追求するこの「Tanno Music」は、人間関係が希薄になったり、個人のアイデンティティが失われがちだったりする今の時代に求められているものとも交叉すると思います。
 また、都市化や情報化が進み、大人も子どもも季節の移ろいをゆっくり味わうことが、かつてよりめっきり減ってしまった今日、微妙な音づかいで温度感、空気感、色彩感を見事に表現し得る「Tanno Music」は、人間らしい感性を呼び覚ます音楽としても大変有効と、活動を通して私は感じるのです。

●技術を超えた美的表現の追求

 では、この独自な音楽および合奏法が、いつどんな状況で誰によって開発されたのか、ご紹介しましょう。
 この合奏法の開発者は、丹野修一という音楽家です。彼は自身の作曲活動および演奏活動のかたわら、精神科の分裂病者に合奏指導を30年以上にわたって行ってきました。
 極限に生きる彼らに、技術の訓練なしに演奏に興味を持たせ、深い表現を引き出すためには、まず、すぐ演奏に加われるように一人一人の技術や感性に見合った曲を構成する必要に迫られます。さらに、即時に音楽の魅力に興味を持たせるためには、生理的な皮膚感など、直接五感に訴える、作曲家のエゴを排した簡潔な美を追求し、供給する必要にも迫られるのです。
 こうして膨大な独自の合奏技法とともに、文字通り「どのような人」からも豊かな表現を引き出し、五感を根底からゆさぶる曲が数多く生まれてきました。
 巷では決して聴くことのできない「心身にリアルに迫る音楽」が病院の片隅で演奏されていることが、最近口コミで知られるようになり、その清涼感を求めてわざわざ病院に聴きにいらっしゃる一般外部の方々も多くなりました。

●更なる普及のために

 私は十数年、丹野先生のもとでこの技法と指導法を学んできたわけですが、このシステムこそ、一般の音楽教育の分野に広く普及していきたいものだと思うのです。
 従来の音楽教育のように、相手に練習を求めるのは簡単です。しかし、音楽教育の真の目的とは、技術や理論以前に、一人一人の「自己表現」欲求を引き出し、導いていくことではないかと私は思うのです。
 相手に無理なく最小限の技術で最大限の音楽美を提供し、「こういう風に弾いてみたいな」といった表現の自発性を促すためには、指導者は西洋音楽にとどまらず、「根源的」な音楽の構成や、即興も含めた自由な演奏者の表現をはじめ、あらゆる音楽的手法が駆使できることを要求されます。
 そのために、現在は「合奏講座」を開講しており、あらゆる対象者に対応できるような音楽の指導者の養成をしています。
 「合奏講座」では、まず指導者自身が音の気配を敏感に感じ取るような訓練や、説得力のある表現に必要な身体の訓練など、技術や理論以前のプリミティブなレベルに戻って、柔軟な音楽性を引き出す体得練習を行います。そしてその後、調性音楽によるタイプ(“Tonality Type”)、調性よりも緩やかな構造をもつ旋法によるタイプ(“Modality Type”)、根源的なタイプ(“Musical Arche Type”)など、各タイプの合奏技法を、実習を通して学んでいきます。
 現在、ピアノ指導者を中心として多くの方が学んでいますが、指導を受けるというより自分自身の開発として取り組んでいる方が大部分を占めています。羞恥心ををかなぐり捨て、さまざまな体得練習に取り組む姿はすがすがしいものがあります。

●音楽と人間の原点に立ち戻って

 そもそも楽器は、多くの地域で子どもからお年寄りまでみんなに演奏されてきたものでしたが、いつしかその演奏は専門家に任されるようになってきてしまいました。しかし、私はこの合奏法を通じ、それまで全く楽器を演奏したことのない人たちが、時として、音楽の専門教育を受けてきた人よりも自由に、より美的に合奏をする姿を目のあたりにしてきました。その結果、私がそれまで抱いていた「音楽」への既存概念は根底から覆され、本来の音楽と人間のかかわりの原点に立ち戻ることができました。一方、人間に内在する多様なものを自由に表出させていくためには、従来の音楽教育では足りないものが多すぎることも実感しています。
 この技法をもとに、個人個人に適切な音楽を供給しながら美的な空間を作り上げることのできる音楽家がたくさん育ち、ピアノ等のレッスンにおいて、学校の音楽教育の場で、病院等や施設での音楽活動において、あるいは地域の交流の場や家庭内において生かしていってほしいと願っています。       





●プロフィール

桐朋学園大学ピアノ科卒。作曲家丹野修一氏のもとで作曲法、編曲法および合奏指導法を学ぶ。
現在、合奏指導者のための講座を主宰、指導者の育成にあたる。また、ピアノデュエットを中心とした自身のコンサートを通して、広く「Tanno Music」の普及活動にあたっている。国立精神神経センター武蔵病院、埼玉県立精神保健総合センター、陽和病院で講師を務める。「合奏システム研究所」代表。
今年7月、人間と歴史社より「Tanno Music」よるピアノ連弾曲集「原風景音旅行(仮題)」を出版。


「Tanno Music」ピアノ連弾曲集が発売!
  「原風景音旅行」(8月上旬発売)

 「Tanno Music」のエッセンスをピアノで気軽に楽しめる、待望の連弾曲集が発売されます。
 収録曲も「渚の詩」「夏の終わりに」など、これからの季節にぴったりの選曲です。その涼やかな美しさを皆さんもぜひ味わって下さいね! CDつき。
 また、今回の出版を記念して、来たる8月4日(金)東京・代々木上原の「ムジカーザ」にて、出版記念コンサートが開かれます。(チケット代3500円[予価]。)コンサート・チケットに関する
お問合せは、人間と歴史社(Tel:03-5282-7181)まで。
         



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