2007.1月 第94号


音楽之友社

標準版ピアノ楽譜 New Edition
チェルニー30番 解説付

(末吉保雄・上杉春雄 解説/税込定価 840円)

末吉保雄

 
●チェルニー没後150周年
 2007年は、カール・チェルニー(1791─1857)の没後150周年にあたります。今日、チェルニーの書き残した膨大な数の練習曲は、ピアノ教育のプログラムのなかで重要な位置を占めていますが、心なしか、その価値を低く評価する傾向、つまりただの「指の訓練」として、速く機械的に弾くことのみを目標とする風潮が感じられます。記念の年のはじめに、チェルニーの意義について、改めて考えてみてはいかがでしょうか。

●チェルニーを学ぶ意義
 チェルニーは、ピアノ音楽が急展開する時代に生きた作曲家です。楽器が著しく発達・変化・普及し、それにつれて奏法も音楽も大きく変化してゆきました。チェルニーは、クープランやバッハの鍵盤音楽から当時のピアノ音楽にいたるまでの、一貫し、共通する「基礎」について考え続けました。生涯に発表した膨大な数の練習曲は、さまざまな、新しいピアノ音楽にも通じる「基本」の探求の、そのつどの成果の発表だったかもしれません。
 その曲集には、彼の先生であったベートーヴェンばかりでなく、シューベルトやショパンやシューマンなどの音楽に通じる要素がたくさん取り入れられています。チェルニーを勉強することは、チェルニーを通じてピアノ音楽の基礎を学ぶ、ということではないでしょうか。

●チェルニーをもっと深く理解するために
 本書では、こうしたチェルニーの意図を、わかりやすく理解していただくために、次の3つの方向から解説しています。
【読譜】 「練習をはじめる前に」という章で、読譜のポイントを書きました。楽譜に書かれているあらゆる記号を丹念に読み、すべてを表現しようと努力することが必要です。チェルニーの時代には、すでに楽譜に多くの文字・記号を記入する習慣が広がっていました。どの記号にも作曲者チェルニーの意図があります。速く弾くことにとらわれてつい見過ごされがちな強弱記号や、左手の重要な役割などについて、その意味を解説しています。
【練習】 神経内科医でありピアニストでもある上杉春雄氏が、「練習の進め方」を執筆しました。効率がよく、無駄のない奏法を身につけるために、手や筋肉のしくみを理解し、体の使い方をよく観察することを提案しています。正しい奏法とは、教え込まれて身につくものではありません。的確な助言のもとに自ら発見していくことができるよう解説しています。
【分析】 解説を執筆するにあたって、この曲集を何度も読み直しました。すると、これまでの記憶のなかの姿よりも、ずっと素晴らしい作品として、蘇ってきました。内容や配列もよく考えられていて「練習曲」というより、「作品」としての価値を新しく見直しました。
 
そこで「各曲の手引き」に、この曲集のもつ魅力を分析し、紹介する、という形をとることにしました。分析の観点は、和声や主要な動機、フレーズや、構成的に扱われるリズムなど、さまざまです。生徒にとって簡単にできることばかりではありませんが、できることから取り組んでください。楽譜を丹念に読み、分析し、自分なりに練習を組み立てていく内に、しだいに作品のしくみや作曲者の意図が理解できるようになるでしょう。何を表現するのかという目標が見えてくると、意欲も湧いてくるはずです。
 本書が、生徒や指導される先生方に、作品の魅力を伝え、再発見する一助となれば、幸いです。


末吉保雄(すえよし・やすお)
 1937年東京生まれ。東京芸術大学、パリ・エコールノルマル音楽院作曲科卒業。1965年フランス国立放送音楽研究所講習生。作曲に加えて、東京芸術大学、桐朋学園大学などの教員として、またNHK音楽教育番組への出演、企画などによる教育活動に携わった。また、数多くの演奏会の企画・制作、作曲家・作品研究の記事執筆も長年続けている。現在、日本現代音楽協会名誉会員、日本フォーレ協会会員、日本セヴラック協会会員、OTOの会顧問。

上杉春雄(うえすぎ・はるお) 1967年北海道生まれ。PTNAコンペティションG級金賞グランプリ、マリア・カナルス国際コンクール入賞。1988年サントリーホールでリサイタル、東芝EMIよりCDデビュー。東京フィル、読響等のオーケストラや諏訪内晶子との共演を行なった。北海道大学医学部卒業。東京大学大学院医学系研究科修了。演奏会のほか、病院内でのコンサートが新聞・雑誌・テレビなどで全国に紹介される。医学博士、日本内科学会認定医、日本神経学会専門医。



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