2006.10月 第91号


全音楽譜出版社

全音ピアノライブラリー

ラヴェル ピアノ作品全集
(全三巻) 

(三善 晃 監修・解説/石島正博 解説・校訂/金澤希伊子、海老彰子 運指・ペダル・演奏ガイド)      ※10月下旬に第一巻を刊行、以後順次刊行予定

 石島正博

 

 ラヴェル没後70年という記念の年を来年に控え、待望の三善晃監修による「ラヴェル ピアノ作品全集」(全三巻)が出版されます。
 近年、多くの人に好んで演奏されるようになったラヴェル作品ですが、出版から100年近くが経過する外国版初版譜が、今なお多くの問題を抱えたまま使われています。この度の《全集》は、そのような問題を解決し、さらに三善晃をはじめとする著者陣によるラヴェルへのアプローチがふんだんに織り込まれた楽譜です。

◆ラヴェルの「音」と出会う楽譜
 《単に音符を連ねた譜面を〈楽譜〉として提供するのではなく、作曲家が生きた時代を、その背景としての歴史・文化・言語の文脈とともに可能な限りリアルに浮かび上がらせ、そのパラダイム(思考の枠組み)のなかで楽譜の音と出会う》とは、三善晃が《全集》に寄せた言葉です。弾くことだけではなく、弾くためのさまざまな考え方をあらかじめ楽譜にきちんと組み込んでおき、そうした楽譜の中でラヴェルの「音」と出会うことが大切だと、三善晃は指摘しています。
 《全集》では、「なぜ、そこに、その音をそのように書いたのか?」ということを、自筆譜やさまざまな資料を可能な限り検証し、分かりやすく丁寧に解説。ラヴェルが音に託したメッセージを惜しみなく伝えます。また、ラヴェルに関わった人々、友人たちへの手紙、写真、ラヴェルが生きた時代を切り取った年譜など、この一冊で充分に背景を学べるように出来ています。
 ただ演奏するだけでなく、さまざまな観点からラヴェルの「音」と出会うための近道となる楽譜なのです。

◆ピアニストのレッスンを自宅で
前述した「解説」の他に、金澤希伊子、海老彰子による「演奏ガイド」がついています。その一部をご紹介しましょう。
『ラヴェルの《美しく、華やかで節度を持った洗練》を表現するためには多様な打鍵法が必要。鍵盤は立方体であることを認識し、どの角度で、どの圧力で、どの速さで、指のどの部分で打鍵するかを考えるのです。10本の指は10人の音楽家なのですから』(金澤)『塗り絵では、音楽にならない。人の息吹、心臓の鼓動、そして絶え間なく動いてわたしたちの命をつなぐ血液。できるならば、演奏を通じて可能な限り、生きた人間の感性を伝えたい』(海老)
 
両氏のラヴェルに対する造詣の深さ、そして演奏家、教育者としての経験が集約された助言は、指使いとペダリングとともに、楽譜を手にしたその日から直ちにレッスンに役立つものであり、指導者として生徒とどのように向き合うべきか、〈教える側〉と〈教えられる側〉の共に進むべき道を指し示してくれるでしょう。
 また、《水の戯れ》や《夜のガスパール》の海老彰子による訳詩は、ピアニストの指に溶け込む言葉であり、詩も音楽も自分の心で読み取ってほしいという願いが込められています。

「ラヴェルを演奏したい。」その読者の気持ちに支えられて筆者はじめスタッフは長い年月と困難を乗り越えてきました。最後に監修者・三善晃の《全集》に寄せる言葉を紹介させて頂きます。
「ひときわ薫り高い一筋の水脈。 《全集》は水脈を掬い取ろうとする。慎ましくも誇り高く豊かに薫り続けているラヴェルの独創的な燦めく水脈。 《全集》を手にされた方はその水脈の燦めきを実感し、それぞれのピアニズムに反映させて下さるだろう。編集に携わった一同の、それが願いである」

●石島正博(いしじま・まさひろ)
作曲家。桐朋学園音高、音大卒。作曲を三善晃、ピアノを金澤希伊子、指揮を尾高忠明の諸氏に師事。82年武満徹主宰MUSIC TODAY国際作曲コンクールファイナリスト、80年、日本音楽コンクール(管弦楽部門)3位、87〜89年フランスにて研究生活を送る。91年、朝日作曲賞。現在、桐朋学園大学助教授。



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