2006.5月 第86号


ヤマハミュージックメディア

ウィリアム L.ギロック
ピアノ小品集
CD付
(伊藤仁美 校訂 ・ 監修 税込定価 2205円)

伊藤仁美


  ギロックのピアノ曲は、小さな子どもの手でも豊かな表現力を発揮でき、大人にも受け入れられる内容と雰囲気を持った曲が多いことで大変人気があります。けれども、ギロックの作品がバロックから近現代までの様式とエッセンスを織り交ぜながら、演奏しやすいオリジナルな小品に仕上げられ、ピアノを学ぶ人が古今東西の作曲家の作品を演奏するための足がかりを作ってくれる教育的な側面はあまり知られていないようです。

  この度出版されました「ギロック・ピアノ小品集」には、王様の戴冠式、舞踏会、狩猟など、様々な宮廷生活を描いて表題にしたバロックスタイルの作品を中心に、独特なギロックサウンズを持つ現代スタイルの作品、風車やヨーヨーなど子どもの玩具をモチーフとした作品、独特なメロディやリズムから、その国や街の様子が目に浮かぶ民族音楽的な作品などが集められています。各曲はどれも小さな小さな作品ですが、ピアノの多様な音の世界と、音の世界が伝えるイメージの豊かさを再発見できると思います。


 その中でも、ポリフォニーや舞曲の要素の多いバロック音楽はピアノを学ぶプロセスでは避けて通れない作品ですが、ピアノという楽器が誕生する前に作曲されたため、様々な音色の出るピアノでどう表現したらよいかは指導者の悩むところです。チェンバロなど音色のニュアンス、強弱の変化がつけられないバロック時代の鍵盤楽器での演奏習慣や「ノート・イネガレ
(=notes inegales ― 音の長さを不均等にすること)」「マニエーレン(=Manieren ― 方法、強調、気取り、〜風などの意味)など、楽譜から読み取りにくい表現方法を、ギロックの作品では様々な工夫をこらして楽譜に細かく表記し、バロック音楽を生き生きと表現できるように考えられています。これらの曲を学ぶことで、バッハがインヴェンションで目指したカンタービレの奏法や、バロック音楽にふさわしいイントネーションを身につけ、子どもにとっては遠い音楽であるバロック時代の音楽に自然に入っていけると思います。そして、フランス組曲などに使われているガヴォットやサラバンドなどの優雅なバロックダンスのリズムを、ヨーロッパの貴族になったつもりで体験して下さい。

  また、これまでとても人気がありながら出版できなかった「パリの休日」「スペインの休日」が収録できたのは嬉しいことです。どちらも2ページの短い曲ですが、「パリの休日」は、おしゃれなパリの街角を自由に歩き回っているような気分を表現し、「スペインの休日」は、情熱的なフラメンコの歌と踊りがギターの音色と共に凝縮されています。さらに、ギロック氏と共に奏法などを考え、氏から献呈を受ける事になった「蜃気楼」は、より演奏しやすいように2種類の楽譜を収めました。

  先に出版された「叙情小曲集」のCD付が好評だったため、今回の「ピアノ小品集」は、CD付曲集のみの出版となりました。ギロック氏のテンポ、私が演奏する際のテンポを両方表記しましたので参考にして下さい。

  また、ギロック氏とは美術の趣味でも驚くほど感性が合い、私がデザインしたコンサートのポスターをずっとお部屋に飾って下さっていましたが、その時の下絵に描いたものを今回楽譜の表紙に使っていただき、感慨深くしております。

伊藤仁美(いとう・ひとみ)
桐朋大学音楽学部ピアノ科卒業。全国各地でコンサート、公開講座などで活躍する他、ギロックの作品集のCDをフォンテック、ビクターからリリース。ヤマハミュージックメディアからは「叙情小曲集」「ピアノ小品集」の校訂楽譜(CD付)を出版。1999年から毎年ギロックCD制作オーディションを主催。また、全音楽譜出版社から「フィビヒ ピアノ曲集 気分、印象と思い出」「ヤナーチェク ピアノ作品集」「チェコピアノ作品集T・U」「ドヴォルジャーク詩的な音画Op 85」などを校訂した楽譜とCDが全音楽譜出版社から出版される(フィビヒCDのみナクソス)。また、ブルクミュラーの新校訂楽譜に準拠して演奏した「練習曲 Op 100&Op 109」 全43曲を収録したCDを全音からリリースする。ギロック協会主宰。



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