2006.4月 第85号


音楽之友社


標準版ピアノ楽譜
ハノン・ピアノ教本
New Edition

(小鍛冶邦隆・中井正子 解説 税込定価 1155円)


小鍛冶邦隆
中井正子



 「ハノン・ピアノ教本」は、ほとんどすべてのピアノ学習者が用いる教則本です。初心者の導入段階から、さらに学習が進歩した段階においても一貫して使用される、という特徴を考えると、「ハノン」は真の意味で基礎的な教本といえます。学習段階に合わせて使用する他の教本と違い、初級・上級にかかわらず演奏の基本としてのテクニックが学べるように配慮されているのです。

テクニックについての新しい考え方

 19世紀後半に活躍した、フランスの音楽教育者としてのハノン(アノン)が1873年に出版した《ピアノ・ヴィルテュオーゾ》が、今日「ハノン・ピアノ教本」として知られるものです。ここでは楽曲中の難しいテクニックを簡易化して学ぶ方法よりも、どのような技術的困難にも対応できるテクニックの効率的な学習方法が探求されています。「ハノン」が楽曲の難易度に関わりなく有効に使えるという特徴はここにあります。学習者は現在学んでいる段階に応じて、必要なテクニックを「ハノン」から引き出すことができるのです。このような19世紀から20世紀に至る、演奏上のテクニックについての新しい考え方について、新刊「ハノン・ピアノ教本 New Edition」の解説中で作曲家の観点から小鍛冶邦隆が詳しく説明しています。

ハノン練習法・指導法の重要さ

 一冊の教本が様々な学習段階に対応できるということは、当然この教本をいかに用いるか、という問題に到着します。ハノンは60曲からなるこの教本を練習曲集(エチュード)でなく、課題集(エクスサイズ)と呼んでいます。この教本は、特定の目的(テクニック)の為の練習曲というよりは、学習者が直面した新たな技術的困難を解決するために、様々に応用可能な課題集として構想されているのです。作曲者ハノンはこれらを独習可能とすらしていますが、勿論指導者がこの教本の特徴を理解したうえで、学習者に合理的な練習法を指導することによってこそ、最大の成果が期待できるといえます。新刊「ハノン・ピアノ教本 New Edition」では、ピアニスト中井正子がこの教本を用いる指導者に、ピアノ演奏のテクニックを学ぶ上のアドヴァイスと、ハノン練習法と指導法について具体的に解説しています。

進化するハノン

 「ハノン」は20世紀に至っても、編集者による様々な改変を経て、新しい時代に対応してきました。新刊「ハノン・ピアノ教本 New Edition」は、もう一度「ハノン」の原典に戻り、真に音楽的なテクニックを学ぶ方法と意味の自覚を得られるように意図されたものです。今度はこの教本をいかに用い続けるかによって、「ハノン」は学習者各人のなかでそれぞれの進化を続けて行くのです。

小鍛冶邦隆(こかじ・くにたか)
東京芸術大学作曲科で永富正之、松村禎三に学ぶ。在学中より山田一雄のアシスタントをつとめ、同大学院を経て、パリ国立高等音楽院作曲科、ピアノ伴奏科でO.メシアン、ピュイグ=ロジェ他に、およびウィーン国立音楽大学指揮科でスウィトナーに学ぶ。クセナキス作曲コンクール(パリ)第1位、入野賞、文化庁舞台芸術創作奨励賞、国際現代音楽協会(ISCM)「世界音楽の日々」他に入選。CDに『愛の歌』(フォンテック)他がある。現在、東京芸術大学作曲科講師。

中井正子(なかい・まさこ)
東京芸術大学音楽学部附属高校在学中、パリ国立高等音楽院に留学。ピアノ科を審査員全員一致の1等賞首席で卒業。第3課程(研究科)を経てジュネーヴ国際音楽コンクール第3位、ロン・ティボー国際音楽コンクールのフランス音楽特別賞他を受賞。パリ、リヨン、ワルシャワ等でのリサイタルの他、国内でも都響、新日フィル等を初め多数のオーケストラと共演。ドビュッシー、ラヴェルの全曲演奏など、活発な演奏活動をおこなっている。
現在、桐朋学園大学及び東京芸術大学各講師。



第86号へ

バックナンバー “index”へ

Topへ