2003.11月 第56号
全音楽譜出版社
「ブルクミュラー・ファンタジー」
〔連弾とソロ〕
(宮本満栄 編曲・解説/本体価格 1300円)
宮本満栄
ポップスの世界では、あるアーティストのオリジナル作品を別のアーティストがリズムやアレンジを変えて歌ったり演奏したりすることを、“Cover
Version”、略して“カヴァー”といいますが、この曲集はまさしくその名のとおり、ブルクミュラーの“カヴァー”です。
子どもたちの初級用練習曲集として、いまだにその確固たる地位をゆるぎないものとしている「ブルクミュラー25の練習曲」の中の10曲を、大胆にもラグタイムやカントリーにしてしまったのですから「クラシック以外聴く耳持たぬ!」とおっしゃる方からは「不届き者!」とお叱りを受けそうですが、「なんでもアリ」のこの時代、
ちょっと毛色の変わったブルクミュラーがあってもいいのではないかなあー、と思ってアレンジしてみました。
…… と言いますのも、私が子どもの頃は「アラベスク」や「乗馬」は憧れの曲で、バイエルを習っている子どもたちはまず「アラベスク」を目標にして頑張ったものです。ところが時代が進むにつれて子どもたちを取り巻く音楽環境は大きく変化していき、ところかまわずダンスミュージックが氾濫している日常を過ごしている子どもたちにとって、ブルクミュラーはすでに「非日常の音楽」、「古い時代の退屈な音楽」としか感じられなくなってしまったのではないかと思えて仕方がないのです。
まして大人顔負けのスケジュールを毎日こなしている現代の子どもたちは、興味のあるものには飛びつきますが、おもしろくないものには堂々と「NO!」と言う、恐れを知らぬ根性の持ち主たちばかり。たった2ページの曲さえエンエンと仕上がらぬ状況が続き、それでもここが我慢のしどころ、と頭に血が上るのを抑えつつレッスンを続けていくうちに、ある日突然「もうピアノやめます」などと言ってくるのですから、「もうやってられない!エーイそれならあなたたちが弾きたいと思うようなブルクミュラーにしてあげようじゃないの!」と思って作ったのが、この「ブルクミュラー・ファンタジー」です。
ポップスは何と言ってもリズムが命。したがって、どの曲もリズムを楽しみながら演奏できるようにしています。また全曲を連弾とソロとにアレンジし、どちらを弾いても同じ雰囲気が味わえるようにしていますので、生徒さんのレベルに応じて連弾かソロかを選んで使っていただければと思います。最初に連弾で練習してリズムに慣れてからソロを弾く、というのも有効な方法だと思います。
音楽の楽しさはいろいろなところにあると思いますが、その中のひとつに「意外性」があります。カヴァーの楽しさはその意外性にあると思います。「えっ? あの曲がこんなになっちゃったの?」というのは、まさしく「音楽の魔法」に触れた瞬間です。
「リズム」はその魔法をかけるための魔法の杖です。リズムが変わるとこんなにも曲の雰囲気が変わってしまう、ということを子どもたちが実感として感じることは、先々音楽に興味を持ち続ける大きな原動力になると思います。
「音楽は自由なものだ」と子どもたちが感じることが大切だと思うのです。この中の曲を弾いて発表会でみんなをあっと驚かせるもよし、「子どもの頃にブルクミュラーをやりました」という大人の生徒さんに「21世紀バージョンです」と渡すもよし。
とにかく硬いことは抜きにして、遊び心いっぱいで使っていただければ幸いです。
●プロフィール
北九州大学文学部国文学科卒。フリーのレスナーとして初心者からプロまでの指導にあたる傍ら、ジャズピアニストとしても地元を中心に活動中。また作曲も手がけ、'93年にオリジナル組曲「ALASKA」を、'03年に「ALASKA」シリーズ第二作目の「A
Breath of Wind」を自主制作でリリース。
現在、公開講座「生徒一人一人のための楽譜選び」講師として、全国各地で講演中。
●著 書
「ブルクミュラー・ファンタジー」(全音)「ポピュラー・ピアノ 8小節の練習曲集
《リズム編》 [改訂版] 」(ドレミ) |