2003.7月 第52号
音楽之友社
セヴラック ピアノ作品集
舘野 泉
デオダ・ド・セヴラックは1872年、南フランスの農村地帯ラングドック地方ロラゲ郡に生まれ、1921年、スペイン国境に近く、カタロニア色の濃いセレで亡くなりました。一時はパリでも活躍し、同時代のドビュッシー、ラヴェルと並んでフランス音楽新時代の旗手として高く評価されますが、結局は大都会の生活になじめず、彼がこよなく愛した南仏の故郷に戻って創作を続けます。それは、フランスの音楽界がパリ一極主義に傾いていることへの反発でもあったでしょうし、自分にとってより身近であった豊麗な地中海の文化を取りいれた創造を夢見ていたからかもしれません。
セヴラックは故郷に帰り、自分の村の貧しい農夫たちを最良の仲間としながら、創作活動を続けました。村の教会でオルガンを弾き、ブラスバンドに飛び入りしてチューバを受け持ち、日焼けした野良の人々と分け隔てなく談笑しながら送る日々こそ、彼の望むものでした。名声とか流行には見向きもせず、謙虚で優しい心にあふれた、飾り気のない人柄がしのばれます。そして、その音楽は人そのものに、何の気取りもなく柔軟で詩情にみち、深々とした情感とユーモアが手に手をとりあっているのです。
往時はマルグリット・ロンや、アルフレッド・コルトー、リカルド・ヴィニェスといった名ピアニスト達に合い草された彼の作品ですが、第二次世界大戦後の長い期間、音楽の主流から外れて忘れ去られていた感があります。それが、昨年の生誕130年の前頃から、にわかに多くのピアニスト達の注目を浴びるようになりました。再評価の気運が高まってきたのかもしれません。
「セヴラック ピアノ作品集」全4巻の刊行が進行中です。彼の代表作で、演奏にはそれぞれが30分近くを要する三つの組曲《大地の歌》
《ラングドック地方にて》 《セルダーニャ》が収められるのはもちろん、これまで未出版であった数曲の小品も含め、彼のピアノ作品の全貌が紹介されようというすばらしい内容です。第2巻までが既に刊行されていますが、その第1巻には親しみやすい組曲《休暇の日々から》第1集と第2集が収められています。特に《シューマンの祈り》で始まる第1集は、技術的にも「子供の情景」と同程度で、簡明ながら気品とユーモアに満ちた作品。
《ショパンの泉》で開始する第2集は華麗でピアニスティックです。第2巻では《ラングドック地方にて》と、近代フランス音楽の傑作と称えられる《日向で水浴びする女たち》、《水の精と不謹慎な牧神》。それこそ南仏の美しい自然が生んだ、大地の香りが漂う音楽です。
セヴラックは即興演奏の名手でした。その気質と特徴に沿った久保春代さんの編集はまさにつぼを得たものですし、楽譜の体裁も流れるように柔らかく、セヴラックの音楽が聴こえてくるようです。この出版を機会に多くのピアニストにとりあげられていくことを期待しています。
今年の5月、音楽評論家の濱田滋郎氏、文学と音楽の両分野で活躍する小沼純一氏とともに、「日本セヴラック協会」を立ち上げたところです。彼の音楽を愛する方々の参加を、心からお待ちしております。
◆舘野先生が演奏されているセヴラックの2枚組CD「ひまわりの海〜セヴラック・ピアノ作品集(WPCS-11028/29)」が、ワーナーミュージック・ジャパンより発売されています。
◆「日本セヴラック協会」…… 活動内容は
(1)年2回程度の会報の発行
(2)例会の開催
(3)会員相互の親睦を図るためのイベント
を予定。去る2003年5月25日、発起人3氏の講演とCD鑑賞会を中心とした第1回例会を、代々木のアトリエ・ムジカで開催。
「日本セヴラック協会」連絡先:severacjp@yahoo.co.jp
TEL:045-895-2317(松田)/TEL:042-502-7227(亀田)
●プロフィール
1936年東京生まれ。60年東京芸術大学を首席で卒業し、64年よりヘルシンキに在住。68年メシアン・コンクール第2位。74年第4回福山賞受賞。76年フィンランド大統領より獅子第一等騎士勲章を授与され、81年以降は、フィンランド政府の終身芸術家給与を受けて演奏活動に専念している。96年7月、日本と諸外国との友好親善への貢献に対し、外務大臣表彰受賞。リリースされたCD・LPは100枚に及び、ベートーヴェン、シューベルト、ブラームス、ショパンなどのソナタの円熟し深い詩情に溢れた演奏は世界各地で高い評価を得ている。エッセイ集「星にとどく樹〜世界を旅するピアニスト」(求龍堂)。
CDは、キングレコード、ポニーキャニオン、ワーナーミュージック・ジャパン、東芝EMI、アーツ・コアよりリリースされている。 |