2001.7月 第28号

音楽之友社



「空飛ぶモグラ」
〜わんぱくピアニストたちへ〜


春畑セロリ

  小さい頃の私は空想癖が強くて、自分の中でいろいろな物語を育てて楽しんでいるような、はにかみ屋で内向的なこどもでした。ところが変われば変わるもので、10歳を過ぎる頃からすっかり性格が豹変し、陽気で行動派のお騒がせ娘になってしまいました。今でもかつての性格の片鱗があちこちに顔を出すのですが、幼い頃の思慮深さと少女時代のパワーはどこへやら、単なる空想好きなオチャラケ者という、始末に負えない大人になっています。
 私の場合は極端かもしれませんが、どんなこどもも、そしてどんな大人も、さまざまな顔、さまざまな体質を合わせ持っているし、さまざまな空想世界、 物語、希望、可愛らしい悩み、可愛らしい野望、そしてさらに、奥深いさまざまな可能性を持っているのだと思います。成長していくうちに、そのどれかは忘れ去られ、別のどれかは拒否され、封印され、また別のどれかは伸び悩み、折れ曲がってしまう。「ちゃんとした」大人になるために、こどもの頃に持っていた「ちゃんとした」自分、「自分らしい」自分、「ちょっと変だけど、けっこう魅力的な」自分を、だんだん忘れてしまうのです。大人は、こどもたちを育てているつもりで、案外、可能性をつぶしているのかもしれません。過激でもヘンテコでも常識外れでも、可能性は可能性だとするならば……!

●こどもたちの脳ミソを刺激したい!

 私が今回、
ピアノ曲集「空飛ぶモグラ」(音楽之友社)を書き下ろしで出版させていただくことになったとき、まず考えたのは、いくつものタイトルでした。こどもの世界、こどもの関心事っておもしろい。彼らの日常は、他愛がないようで、実は一筋縄じゃいかない。気楽なようで実は悩みに満ち、甘えてるようで実は冷静で賢く、乱暴なようで実は繊細。そんなこどもたちの生活の中の、ありふれた、でも純粋なヒトコマを取り上げようと思ったのでした。
 そして「おとぎ話はキライ」とか「空をさわりたい」とか「ちょっと好きな女の子」などの各曲のタイトルを見て、「あ、僕みたい」とか「え、何これ」とか思って欲しかったのでした。そして勝手な想像をいっぱいして欲しかった。自分の世界をいろいろ模索して欲しかったのでした。そのために短い詩もつけました。音楽に対する蛇足の説明をするためではなく、こどもたちに、自由で具体的な想像への手がかりをプレゼントしたかったからです。

●こどもたちのハートを刺激したい!

 まずこどもたちには(もちろん大人たちにも!)、自由に弾いてみていただきたいと思います。速く弾くもゆっくり弾くも、強く弾くも弱く弾くも自由です。あ、ステキと思ったら、ステキに弾き、退屈と思ったら退屈に弾いてほしい。自分で感じ、自分の表現をしてくれたらなぁと思います。「ここはフォルテよ!」とか「ここは悲しいのよ!」なんて先生に叫ばれる前に、まず自分で自由に感じてほしい。だから、難解な音楽表現やひとりよがりな芸術性は極力避け(というか、根が単純で凡人なので、こうしかならなかったというウワサもある!)、こどもたちにもわかりやすい、平易で率直な表現や音使いを心がけました。

●こどもたちの小さな指先を刺激したい!

 そして、曲の魅力を小さなピアニストたちが自分でつかんでくれたなら、きっと自分自身で魅力的なタッチを探してくれる。この音はそっと弾き、この音はふんわり響かせる。このパートは歯切れ良く、ここはどっしり重みをかける。そんな自発的なテクニックをこどもたちが探求し、見事に仕上げてくれることを、この空想癖のある、お気楽者の作曲者は、密かに期待しているのです。

●プロフィール

東京芸術大学作曲科卒。ビデオ、舞台などの音楽や、楽譜出版物、教材等の作編曲、CD、音楽ソフトの制作、音楽書の執筆などで活躍中。

●著 書

「バッハ連弾パーティー」「こどもピアノワールド Vol.1〜5(共著)」以上音楽之友社、「ピアノの悩みを解決する本 Vol.1〜3」「ピアノ・アレンジの謎を解く/超入門編」以上ヤマハミュージックメディア



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