2000.11月 第20号
全音楽譜出版社
フィビヒ「気分、印象と思い出」
ボヘミアの抒情を歌い、愛の喜びと哀しみを綴ったピアノ曲集
伊藤仁美
作曲者のZ.フィビヒ(1850−1900)がプラハで世を去ってから今年でちょうど百年になります。私がフィビヒの曲と出合ったのは、チェコを代表するプラハ・ヴラフ・カルテットとドヴォルジャークのピアノ五重奏曲のCDを制作する準備のためプラハに出かけた時でした。ふと立ち寄った楽譜屋さんで見つけたフィビヒのピアノピースを弾いてみたところ、何故かとても耳に懐かしさを覚え、お店の人に尋ねたところ「これはチェコではとてもよく聴く曲で、ヴァイオリンの名手ヤン・クベリークの編曲した「詩曲」としても有名だよ」と教えてくれました。最近ではオーケストラ版でも演奏されているとか・・・
その後、プラハ市立の音楽学校を訪問したのですが、立派な校舎と音楽設備の素晴らしい環境の中でレッスンを受けている子供たちの音楽が、あまりに表情豊かなことに感動しました。また、そこでギロックを紹介するコンサートが開催され、私自身も演奏したところ、とてもよい反応を選られ、音楽的に通じるものを感じたので、この音楽の都には私たちの知らない宝物のような曲がまだまだあるような気がしました。
改めて楽譜を探すと、これはピアノ曲集「気分、印象と思い出」の中の曲ということが判りました。あまりにメロディが美しくおしゃれな響きを持っていたので、昨年リリースしたCD「ドヴォルジャークピアノ五重奏曲」(フォンテック)2曲だけ入れたところ、「レコード芸術」などの音楽誌に「もっと聴いてみたい」という記事が出たのがきっかけで、チェコ音楽研究家の関根日出男先生にフィビヒについていろいろ教えていただきながら日本に紹介することになりました。
フィビヒはドヴォルジャークと同じ時代を生きながら、ドイツロマン派の影響を大きく受け、多くのメロドラマやオペラ、交響曲、室内楽作品を作曲しましたが、ピアノ曲も600曲以上残しています。その中でもこの「気分、印象と思い出」は全部で376曲から成り、フィビヒの晩年の恋人アネシカとの愛を綴った日記といわれています。今度、全音楽譜出版社から30曲を選曲して出版する事になり、その30曲を収録したCDがナクソスからリリースされます。繊細で優しくシンプルな曲から、ドラマチックで情熱的な曲、民族音楽のような親しみやすい曲まで、さすがヨーロッパの音楽院といわれるチェコ(ボヘミア)のプラハで生まれた作品らしく、豊富な音楽的内容をもっていますがテクニック的には比較的困難なものは少なく、歌心のある表現力が大切な要素となっています。
モーツアルトやベートーヴェンなど多くの作曲家が愛し、何度も訪れ音楽の都として世界中に認められていながら、複雑な政治的背景から日本にはなかなかチェコの音楽が紹介されていなかったことは寂しい気がします。最近では、チェコの演奏家もかなりたくさん来日して名演奏を聴かせてくれますし、プラハに出かける日本人も急増して、これからはチェコの音楽もどんどん身近になってくるでしょう。スメタナ、ドヴォルジャーク、ヤナーチェク、マルチヌーなどの作曲家と同じくフィビヒの作品が日本のピアノを弾く人のレパートリーに加えられれば嬉しく思います。
●プロフィール
桐朋学園大学卒業後、全国各地でコンサート,公開講座などで活躍する他、ギロックの作品集のCDを、フォンテックから「叙情小曲集」「MAJORS
& minors」「SONATINES」、ビクターから「はじめてのギロック」「発表会のための小品集」「こどものためのアルバム」など4枚リリースしている。その他、日本人では初録音の「演奏会用大独奏曲」を含むリストの作品集と「山口美名子作品集」をビクターから、プラハ・ヴラフ弦楽四重奏団と共演した「ドヴォルジャークのピアノ五重奏曲Op.81」をフォンテックからリリース。
秋には、今年没後100年を迎えるチェコの作曲家、Z.フィビヒのピアノ曲集「気分、印象と思いで」の全376曲から30曲を選曲、校訂して全音楽譜出版社から出版、その30曲を収録したCDが、ナクソスからリリースされる。ギロック協会主宰、芸術協会会員。
伊藤先生ホームページ
http://www.isky.ne.jp/~piano/ |