2000.8月 第17号


全音楽譜出版社

様式とテクニックが同時に学べる
ピアノのためのようじからの4き」

木幡律子


  最近各地のピアノ講座で先生方とお会いして感じることは、ひと昔前のバイエル、ツェルニー、ブルグミュラー(ロマン初期)、ソナチネ〜という古典期重視の路線にとらわれず、今では小さいころから多岐にわたった曲(バロックから現代まで)を弾かせるという教育方法が結構浸透しつつあるということです。また、子供のコンクールでも、かなりバラエティーに富んだ選曲が増えてきたことは、大変喜ばしいことです。おかげさまで8巻からなる“四期別名曲集”(全音)も皆様にご愛用いただいておりますが、当時、入れることができなかった名曲もたくさん残っており、またかねてより先生方から「小さな子供にとって持ち運びが楽なように、四期の曲が一冊にまとまった曲集を作ってほしい。」というご要望もあって、この度「ようじからの4き」(全音)発刊となりました。「ようじからの4き」は、ピアノを始めたばかりの最初の発表会から、小学校中学年くらいまで弾ける素敵な曲集です。
 小さい子供のレッスンで先生方が苦労されているのは、どうしたらピアノに興味を持たせられるかということではないでしょうか。導入期は、子供にとって未知の世界に対する好奇心もあり、新しい知識を取り入れるのに意欲的ですが、見よう見まねで“猫ふんじゃった”ぐらいが弾けるようになると、新しい音符を自分で読んだりリズムを数えたりといった努力を億劫がるようになります。しかし不思議なもので、好きなものは、猫ふんじゃったやアニメの主題歌のように楽譜がなくても弾いてしまいます。また子供だから子供っぽい曲が好きかというとそうでもなく、大人から見れば不協和音、無調性、変則拍子など難しそうに思えるものでも、何か好奇心をくすぐる要素を持つ曲などは、意外とあっさり弾いてしまいます。そういう意味で「ようじからの4き」は、どの時代の曲もそれぞれ個性的で魅力があり、なおかつ子供の創造力をかきたてるような標題のついたものが収められています。
 個性的なものの中には、珍しいリズムが一貫して繰り返される「ボールあそび」(カバレフスキー)、カノン形式で書かれた「ポリフォニーの曲」(グリンカ)、左右の手が常にスタッカートとレガートで対照的な「かれのジャムパンを失敬して食べる方法」(サティ)など、テクニックも同時に学べる曲がたくさんあります。またバロック時代の優雅な舞曲からロマン期のワルツ、東洋風のかわった踊り(ハチャトゥリァン)など、時代や背景を子供たちと楽しく想像しながら様式を学ぶことができます。そして何よりも重要な感情表現である うたう心 を育てるために、レガートをたっぷりつかったシューマンやチャイコフスキーの小品が収められています。また幸運なことに、今回初めて日本の版権を獲得できたプロコフィエフとバルトークを加えることができました。これからのピアニストには欠くことのできない作曲家でしょう。
 ピアノの曲はなんて数多くあるのでしょう。そしてピアノはなんて表現力が豊かな楽器なのでしょう。生徒が初歩の段階から多面的なピアノの魅力に触れて、感動する心、そして自由に表現する楽しさを身につけられるように、探求心のある先生方! どうぞためしてみてください。
 なお、「ようじからの4き」は近々、ビクターエンタテインメントよりCD化される予定です。

●プロフィール 
 
東京芸術大学、ジュリアード音楽院大学院卒業後、ベルリン芸術大学で研鑽を積む。マリア・カナルス国際ピアノコンクールでメダル受賞。
帰国後は、神奈川フィルハーモニーとの共演をはじめ、各地でリサイタルや室内楽などで活躍中。
現在、洗足学園大学講師。

●おもな著書

「ピアノのための近・現代名曲集 上・下巻」
「グリーグ 自作歌曲による12のピアノ曲」(全音)
CD「新ピアノ名曲全集 全8巻」(ビクターエンタテインメント)ほか。



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