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全音楽譜出版社 全音ピアノライブラリー ピシュナ 60の練習曲 (坂井玲子 校訂・解説/税込価格 1365円) ![]() この練習曲が出版されて、すでに100年以上の年月がたっています。ヨハン・ピシュナ( Johann Pischna 1826-1896)に関しては、あまり多くのことが明らかになっていません。ボヘミア(チェコ)に生まれ、14歳から20歳までプラハ音楽院で学び、その後モスクワの帝立ニコライインスティテュートで18年間教鞭をとり、プラハにもどった後、そこで70歳の生涯を閉じています。ピシュナの生きた時代は、ロマン派の巨匠シューマン、ショパン、リスト、ワーグナー、ブラームスなどが活躍していました。また、チェルニー、クラマー、モシェレス、モシュコフスキーなどの練習曲もこの時代に作られたものです。たくさんのすばらしいピアノ作品が生まれ、より高度なテクニックが求められるようなった時代背景の中で、このピシュナの練習曲も生まれたのです。 この練習曲は「ブラームス:51の練習曲」や、リストの膨大な音階練習などと同種の《指のトレーニングのための練習曲》です。これまでにE.v.ザウアー、W.レーベルク、A.ルタールド、伊達純などによる校訂版が出版されています。この度、新たに全音楽譜出版社から校訂版を出版するにあたり、現在、日本のピアノ学習者にとって、どんな校訂版が必要なのかを考えてみました。昨今、〈カラマーゾフの兄弟〉を新しい翻訳で読むことや、〈星の王子さま〉をさまざまな翻訳で読み比べるというようなことが盛んに行われています。この全音版では、私の教師体験を通して日頃感じている問題を意識的に提示するよう心掛けました。 先ず、第一点は《音について》です。日本では、昔から「ハノン」の練習曲などを「どの指も均等に揃える」「音を一列に並べる」練習をしてきました。これは日本語の発音と同様に、音を一音ずつと考えていることになります。しかしヨーロッパの言語は、一つの単語に一つのアクセントがあり、単語は音の集合です。単語が集まって文章になり、イントネーションが生まれ、そこで意味と感情が表現されます。西洋音楽は音と音の繋がり、音の線、さらにハーモニーの繋がりです。そして、音の繋がりを可能にするのが呼吸です。また、「歌う」と言っても、さまざまな「歌」がありますが、クラシックの音楽では腹式呼吸でフレーズを一息で歌います。アルトゥール・ルビンシュタインは「ピアノはお腹で弾くもの」と言っています。そのインパクトのある言葉は忘れられません。 第二点は《ポリフォニー》です。音が線になり、その線が重なることでポリフォニーが生まれます。日本人が難しいと感じることとして「音が線になりにくいこと」(言語からくる音感覚)、次に「音を立体的に考えることが苦手であること」(脳と身体の構造による)が挙げられます。言葉や文字で音を説明するのは難しいことですが、その弱点を少しでも改良できるような練習方法と、腹式呼吸とフレーズの関係に注意を促すよう試みました。 「60の練習曲」の前に「リトルピシュナ:48の基礎練習曲」を、バッハのインヴェンションなどと併用すると、ピシュナの目的がはっきりと理解できます。この練習曲を日々の練習に取り入れることで、テクニックの質の向上と表現の幅の拡大に役立てていただきたいと願っております。 |